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公募と呼べない? 新国立競技場の応募条件(2ページ目)

政府により、ゼロベースから見直すことが決定された新国立競技場建設計画。実はこの新国立競技場は建築家によるデザイン案の公募という試みをされたのですが、改めて当時の公募条件をチェックすると、いくつかの穴が見えてきました。

執筆者:西山 雄貴

スタジアムのことしか考えていない募集要件

結果、国内外合わせて46作品しか集まらなかった新国立競技場アイデア案であり、白紙になってしまった建設計画でありますが、応募した建築家の皆さんもハナからアイデアの手がかりなしで作品づくりに着手したわけではありません。

元々、募集要項には新国立競技場に求められる主な要件(目指すスタジアムの姿)として以下の四点が明記されていました。

1)大規模な国際競技大会の開催が実現できるスタジアム
2)観客の誰もが安心して楽しめるスタジアム
3)年間を通してにぎわいのあるスタジアム
4)人と環境にやさしいスタジアム

実に最もなことが書いてあり、ここからデザイン案を組める建築家の皆さんはやはり天才としか言いようがありません。大体要件の3は建築家の仕事というよりも、競技場の運営機関が健全な経営体制の維持に努めるだけという話ではないのでしょうか。

この四点は確かにスタジアムを造る上で重視しなければならないことであるのは紛れもない事実です。一方で問題に思うのは、スタジアムを造ることにしか固執していないという点に他なりません。

五輪後、周辺施設や周辺住民にどんな効果を与えていく施設であるのか、スタジアムとしての価値だけでなく国民が常用的に使っていく術があまり明記されていません。

明記されているのはラグビー、サッカー、陸上競技、コンサート等のイベントを実施するというメインの目的に加え、博物館や図書館を併設するとのことですが従来通りの国立競技場であるならばスタジアムとしての機能に加えて、博物館や図書館という一般利用目的が加わっていることは進歩と言えなくもありません。

しかしながら新しい時代に向かう五輪公式スタジアムであるからには、地下施設を若手起業家に低価格でレンタルオフィスとして貸し出すとか食料自給率を上げる為に畑にしてしまうといった、人が日常的に使用する新たなスタジアムという自由な発想が求められるのではないでしょうか。博物館や図書館であるならば都内に幾つもあるので、既存のスタジアムとは違うアイデアを逆に建築家から募っても面白いと思います。

その上で「世界水準のおもてなしが実現できるVIP関連諸施設を整備する」という規定が募集要項には明記されているのですが、このような抽象的表現ではどのような提案をしてよいか応募する側の建築家でも困るのではないでしょうか。安易に考えて茶室を付ければ正解というものでもないでしょう。

逆に言えば、こうした抽象的表現から答えを導き出すのもクリエイターの仕事と言えます。公開されたデザイン案は外観や試合中、コンサート中のイメージのみでしたが、現代建築の巨匠、ミース・ファン・デル・ローエ氏曰く「神は細部に宿る」と言わしめたように細部のデザインまで含め、次回の選考では評価のポイントとして議論を重ね、こうした施設も公開をしてほしいものです。

せっかく建て直す国立競技場なのですから、建てて終わりのスタジアムであってはなりません。建ててからも活用され続ける道筋があるスタジアムこそ、五輪以降も紡がれ続ける新国立競技場になることでしょう。

ゼロベースになった新国立競技場デザイン案公募であるからこそ、こうした応募資格や箱モノだけに終わらないスタジアムの在り方、外観のデザインだけにこだわらない審査基準に至るまでひとつ募集要項から見直して頂きたく思います。そこから未来志向のスタジアム生まれるのではないでしょうか。

敢えて、公募でない選択肢も考える

「日本の技術力のチャレンジという精神から17番(ザハ・ハディド氏のデザイン案)がいいと思います」、「アイデアのコンペで、徹底的なコストの議論にはなっていない」と記者会見で語られたのは誰であろう、新国立競技場の基本デザインを選ぶ審査委員会で委員長を務めた安藤忠雄氏です。

今回、応募資格を調べた所、前述した5つの国際的な建築賞5つ全てを受賞しているのは1990年以降、安藤忠雄氏、ただ一人。改めて偉大な建築家であることを知りました。

ですから本来、私などが声に出すなど大変、恐れ多い存在であられる安藤氏でありますが、ここは恐れを承知の上で申し上げれば、安藤氏による新国立競技場の建築案で行くというのもひとつの最良な選択肢であると考えます。

決断を下すのは日本の総理大臣だと思いますが、安藤氏であれば多分、誰も・・・ではありませんが多くの方は文句を言わないのではないでしょうか。実現すれば、十分な実績が後押しすることはもちろん、男としての責任の取り方としては最上の姿勢であります。

また、安藤氏が名乗りを上げることにより、東京五輪・パラ五輪のテーマでもある日本人による「おもてなし」の実現として大きな目玉になるのではないでしょうか。あくまで、私個人の案ではありますが。

或いは今回の46作品中、日本国内からは12作品が集結しています。この12組による共演によってデザイン案を練ることで、五輪の輪が意味する“連帯”を演出することもできるでしょう。

建築家は個性的かつオリジナリティで勝負するという私的なイメージがあるので、そのようなことが実現可能かどうかはさておき、これもひとつのアイデアです。

急に公募に反対という立場を取ったように思われますが、個人的には若手建築家にチャンスを与えてほしいという想いも含めた上で、再度、公募による新国立競技場デザインコンペを催して頂きたいというのが理想であります。しかし、今回の騒動も含め、時間とお金をムダに浪費してしまったのは避けられない事実。

ですから、時間とお金という制約から正直なところ、公募が再度行われるかについては半信半疑であります。

その上で今回の新国立競技場建設問題も含め、テキパキと物事を進めていくスピード感とシンプルな決断が今の日本人には国際的にみても求められていることかと思います。

お金を掛けることだけが、日本人本来のおもてなしではありません。お金がない中でも工夫して相手を喜ばせる努力こそ、日本人本来のおもてなしの真意であると考えます。

なぁなぁに進ませず、ゼロベースにするという決断は近年、稀に見る日本の最良な決断です。公募になってもならなくても、ここからは前向きかつ実現性を重視し、日本国民が誇れるような新国立競技場の建設に関係各所の皆様には責任を持って邁進して頂きたく思います。
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