“一年生の心”で現実の自分とリンクさせながら
演じた『マイ・フェア・レディ』のイライザ
『マイ・フェア・レディ』
「皆さんおっしゃっていますが、演技は自分との戦いですし、自分の思い、情熱は失いたくないと思います。最近は特に、お客様のパワーがあるからこそ自分も情熱を注げるのだなと実感しています。お客様が客席に座っていらっしゃるのを感じると、自分の役に血が通うというか、ぎゅっと血の流れが逆流するような感覚をいつも抱くんですね。私は稽古期間中は自分を追い詰めるタイプで、苦しいし、折れそうになることもある。けれども初日にお客様が客席に入って、自分の出番がもうすぐ、だんだんわくわくしてきて、“やるぞ~”という、なんともいえないあの感覚になるんです。そこからがまた毎日戦いで、慣れていってしまう部分に気を付けながら、自分のコンディションを整えてゆかなければいけないのですけれど」
――来年2016年には『マイ・フェア・レディ』の再演がありますね。
「2013年の初演の時には、宝塚を辞めて初めての作品だったので、イライザがヒギンズ家の人たちと関わってレディになっていくという成長物語と自分自身がリンクするような感覚を味わいました。きっとある意味での新鮮さや初々しさがあったと思います。
私は宝塚で19年目に突入するくらいで退団したのですが、宝塚の組の中でも上の学年で、同期生もみんな辞めていまして、まあまあベテランで退団したんですよ。でも『マイ・フェア・レディ』は女優としても初めてで、“一年生からまた始めます”という自分の中での感覚と、男役としてキャリアを積んだ舞台人である自分が同居していました。振り返ると本当に自分との戦いの日々でしたが、自分の中でいろんなことを感じながら、自分なりに成長させてもらえたのかなと思った作品です。来年また改めて向き合った時にどうなるかと、わくわくしていますね」
『マイ・フェア・レディ』写真提供:東宝演劇部
「そうですね。日本人がイギリスの感覚を日本語で、日本のお客様に伝えるのがすごく難しいと思いますし、日本初演から50年の歴史がありますので、きちんと受け継がなければいけない責任があります。そういう作品に携わっていることをとても有難く感じます」
――今後についてビジョンはお持ちですか?
「“こうなりたい”というビジョンはもう少し女優としての経験を積まないと見えてこないかもしれないですね。今は“なんでもやってみたい”といいますか、まだ女優としてはキャリアが浅いですし、まだまだ自分ではわからない可能性とか持ち味がひょっとしたらあるかもしれないと思いますので、今はいろんなことをやってみたいですね。そこで出会える一つ一つの作品にきっと意味があると思います。そういうご縁、タイミング、チャンスといったことが楽しいと言いますか。
宝塚では“なんとなくのレール”がありますよね、いずれは卒業というような。でも退団した今はそういうものが全く見えないので、それこそ“見果てぬ夢”をずっと見ていくのだろうなと思いますね。そしてその時その時思うことが、自分の人生に繋がっていく、それが楽しみです」
――どんな女優さんになってゆくのでしょうね…。
「世の中、何が起こるかわからないじゃないですか。与えられたものをその時一生懸命やっていけば、また次につながっていくんじゃないかな。無理はしたくないというか、宝塚で一回自分なりのピークがあったので、今はゆるやかに流れに身を任せ、たゆたってみて自分のできることをこなしていくという気持ちが、ようやく芽生えてきたかなという感じですね。退団後「初ミュージカル」「初コンサート」と初物づくしが一通り終わったところで、今は第二クールに差し掛かったところでしょうか。その流れに任せてみます」
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「今後が楽しみです」と言うと「楽しみにしてください!」と明るく返してくれた霧矢さん。その自然体の朗らかさの向こうに、つらい経験を乗り越えて培われたものがうかがえ、『マイ・フェア・レディ』で霧矢さんが演じた芯のあるヒロイン像が、より説得力をもって思い出されました。そんな彼女が挑戦する、女性の生命力を象徴するかのような大役アルドンザ役。幸四郎さんの至芸とともに、『ラ・マンチャの男』の大きな見どころとなりそうです。
*公演情報*『ラ・マンチャの男』9月2~21日=シアターBRAVA!、 9月26~28日=まつもと市民芸術館主ホール、10月4~27日=帝国劇場
*次頁で『ラ・マンチャの男』観劇レポートを掲載!