ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

生と死の拮抗が生む壮麗な舞台『エリザベート』(2ページ目)

2000年の東宝版初演から15年、絶大な人気を誇るウィーン・ミュージカル『エリザベート』が、節目の年を迎えてキャストを一新。舞台美術、衣裳もリニューアルし、大きな話題のなか開幕しました。新キャストを得て作品の風合いはどのように変わり、どんな側面が強調されているでしょうか。観劇レポートをお送りします!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

『エリザベート』写真提供:東宝演劇部

『エリザベート』写真提供:東宝演劇部

また、これまでは一歩引いた大人の男の魅力が滲むことが多かったフランツ・ヨーゼフ役をこの日、演じたのは田代万里生さん(佐藤隆紀さんとのダブルキャスト)。幼少期から皇帝となるための帝王学は叩き込まれても人間的には不完全なまま成長してしまった彼の悲哀を、声楽のテクニックも存分に生かし、細やかに表現しています。特に1幕終わりで狂おしいばかりにエリザベートを求め、大きな決断を下すナンバーは出色。さらに「帝国のため」旧態にこだわり、結果的にその崩壊を招いてしまう皇太后ゾフィーを毅然と演じる香寿たつきさん(剣幸さんとのダブルキャスト)、リベラルな内面はエリザベート譲りでありながら、その母に拒絶され命を絶つ皇太子ルドルフをまっすぐに演じる古川雄大さん(京本大我さんとのダブルキャスト)も、本作に人間ドラマとしての厚みを加えています。
『エリザベート』写真提供:東宝演劇部

『エリザベート』写真提供:東宝演劇部

ルドヴィカ/マダム・ヴォルフ二役の未来優希さん(鮮やかな変身ぶり)、この日の少年ルドルフ役、大内天さん(ルドルフの哀しさが伝わる演技)、エリザベートの父マックス役の大谷美智浩さん、エルマー役の角川裕明さんら、そのほかのキャストもベクトルを同じくしたみごとなチームワークで、エリザベートの生きた世界を再現。二村周作さんデザインによる、中央奥に向かって傾いた巨大な墓石など、“死”が内包する禁忌的なイメジャリーと、エリザベートたちの懸命な“生”が相争い時に溶け合い、圧倒されずにはいられない仕上がりの舞台です。劇場の外へ出てからもしばらくは覚めやらぬであろう、それは壮麗なひとときの夢まぼろし。まさしく“グランド・ミュージカル”と呼ぶにふさわしい舞台、と言えましょう。

*2015年『エリザベート』ご出演者への過去のインタビュー記事 花總まりさん山崎育三郎さん尾上松也さん角川裕明さん (8月あるいは9月に井上芳雄さんインタビューを掲載予定)

*公演情報『エリザベート』上演中~2015年8月26日=帝国劇場(前売りは完売。当日券、補助席販売については公式HPを参照ください)

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