オワハラの実態とその影響
「来年までリクルートスーツを当社で預かっておきますよ」。にわかには信じがたい言葉に学生が驚くのも無理はない。これは極端な例かもしれないが、内定者に入社を確約する書類の提出を催促したり、内定者研修と称して学生を何度も呼び出すなど、企業が内定を出した学生を囲い込もうとする動きは例年になく強くなっている。内資大手企業の面接の主戦場となる8月に自社の内定者を奪われまいとする行動だが、あまりにも執拗に入社承諾を迫ったり、必要以上に学生を拘束したりする動きは学生の心証を悪くしてしまい、結果的に内定辞退に繋がるリスクも高い。また、SNSなどで広範に繋がっている他の学生にネガティブな噂が拡散すると、既にその会社に入社を決めていた学生までも逃してしまうことにもなりかねない。そのため、企業は丁寧に内定者を惹きつけることが求められる。
フォーマット化された採用活動が学生のロイヤルティを下げる
企業が学生の囲い込みを強化しようとする背景には、学生の就職活動心理が極めておぼろげで自社に対するロイヤルティが低いことがある。事実、内定を獲得した後も、応募している全ての企業の選考を受けるために就職活動を続ける学生は多い。そうした学生は、最終的にいくつもの会社の内定通知書を並べた上で就職先を選び始めるのだが、往々にしてなかなか決めることができない。
彼らがこのような行動を取る要因は、就職活動が“内定を取るための単なるフォーマット”と化しまっていることだと考えられる。ご存知の通り、今は就職情報サイトにエントリーさえすれば膨大な数の企業情報が自動的に送られてきて、ワンクリックでそれらの会社にアクセスできる。そして、その後はそれぞれの企業が定める選考プロセスに乗っていくだけで就職活動が完了する。その過程で彼らは膨大な量の情報に接するが、それらは全て企業から一方的に発信されるものであり、自身に必要な情報を自ら整理して能動的に取りにいくことはほとんどない。
このような状況下で、学生が個々の会社を深く理解し、入社を決めきれるほどの思いを醸成することが難しいことは言うまでもないが、実はこうした就職活動の環境を提供しているのは採用活動を行う企業自身なのである。取り敢えず興味の高い会社という意味合いの「第一志望群」という言葉が定着しているが、これは、学生が不確かな会社選択を行う仕組みを作っていることの証左と言える。