鉄道、民間交番、商業施設にパチンコ店、
他の街にない施設もあれこれ
京成線を降り、北口に出るとまず目につく、他の街にないモノのひとつがエリア内をぐるりと一周する山万ユーカリが丘線である。これは1978年(昭和53年)に鉄道の事業認可を取得し、1982年(昭和57年)に開業した電気を動力にゴムのタイヤで専用の軌道を走る、排気ガスを出さない交通機関で、エリア内の住宅地は同線の6駅から徒歩10分以内で到達できるように計画されている。一般的な開発では開発が進むにつれ、駅から遠くなっていくものだが、ここではいつ分譲されたエリアでも利便性に大きな差が付くことはない。
これだけでも十分便利だと思うが、地域内に高齢者が増えたこともあり、無料で利用できる電気コミュニティバスの導入も計画されており、現在社会実験が行われているところ。各駅を拠点に街区内を巡るこのバスは将来的には路線上であれば、自宅前でも乗り降り可能とする、高齢者や子育て世帯に優しい仕組みとして考えてられているとか。すでに電気バスの導入に先立ち、クリーンディーゼルエンジンバスが無料で運行されている。かわいいコアラが描かれたバスが走り回る風景は微笑ましい雰囲気だ。
駅北口側にある民間交番も他の街にはほとんどないものだろう。ユーカリが丘では警察などの行政機関に加え、住民によるボランティア、ユーカリが丘専門のセキュリティ会社が三位一体となった防犯体制が築かれており、そのための拠点として民間交番がある。ボランティア組織は防犯パトロールのほか、清掃活動なども行っているそうで、自分たちの街は自分たちの手でという意識の高さが見て取れる。セキュリティ会社も街中の巡回警備に加え、子どもたちの下校時に通学路に立つなど、一般の警備会社だったらまず行わないだろうパトロールを行っているそうだ。
ユーカリが丘駅北口周辺は商業施設、タワーマンションが配されたエリアとなっており、駅との間はペデストリアンデッキで繋がれている。ここにはスーパーやシネコン、書店、カラオケ、飲食店などが入っており、日常の買い物はほぼこのエリアで揃う。
様々な遊興施設の入った建物。自社で運営している施設、テナントに入ってもらっている施設があり、テナント料も大きな収益とか。街が発展していくことで店が増え、便利になることで人が集まりという良い循環が生まれているようだ(クリックで拡大)
これをどう考えるかは人によるかもしれないが、私はあってもいいだろうと思う。自然発生的にできた街には猥雑な部分も含め、多様性があり、それが魅力になっている。極端に走らない限り、計画的に作られた街にもそうした部分があったほうが街としての深みが増すのではないかと思う。気になる人は実際に行ってみてどう感じるかをチェックしてみれば良い。
商業施設に関しては今後、大きな計画がある。それが、2016年(平成28年)完成予定の大規模商業施設イオンタウンユーカリが丘。現在開発が進んでいる住宅・商業複合開発エリア「ミライア街区」の中にある約6haが充てられる予定で、隣接してすでにタワーマンションが竣工しており、今後、300戸を超える一戸建て分譲が進められる計画だ。
街区ごとに異なる住宅地の表情、
独自の資産価値維持の仕組み
ユーカリが丘では街区ごとに街の表情が異なるのも特徴だ。たとえば、ユーカリが丘駅の南側にある南ユーカリが丘はイギリスの庭園スタイルのひとつ、ロックガーデンを模し、街全体が自然石を積んだ庭園のように見える景観が特徴。熱海から運んだ自然石を積み上げ、10余年熟成を待って分譲されたそうで、そのダイナミックさにはただ、驚くしかない。
ログハウスが並ぶ街区もある。オープン外構の、場所によっては家庭菜園、バーベキューも楽しめる住宅が続くエリアで、ぱっと見るとどこかリゾート地に来たような錯覚に陥るほど。他の街区もそれぞれに個性が異なる。
また、こうした循環で街の活性化が続いていること、山万が自社で分譲した住宅の買取りを通じて価格維持に努めていることから、ユーカリが丘では住宅価格が大きく下落することがない。日本では家は古くなると価値がなくなるものとされる。そのため、高齢になって施設に入る際に、その資金として家を売却しようとしてもさほどの額にならず、施設に入れないなど問題を聞くが、住宅が価値を維持していればそんな事態には陥らずに済む。資産価値の維持は将来の生活のゆとりを左右する、大きな要素なのである。
一戸建ての住宅価格だが、基本的には土地面積で50坪(165平米)以下は少なく、これまでの平均は55坪(約180平米)というが、最近は庭、広さよりも価格の安さを求める人が多く、もう少し手頃な40~45坪(132平米~約152平米)、4000~4600万円の家が中心。インフラその他が佐倉市内の他の場所より整備されていることから、周辺に比べると1~2割は高いそうだ。
賃貸住宅は地区計画で禁止されており、エリア内には建てられない。もちろん、分譲された物件が賃貸で出ていることはあり、駅前のタワーのファミリータイプが12~15万円ほどとか。この物件は分譲後10年ほど経過しているものの、今も分譲時より高値だとも。価値が落ちないのは本当なのだ。
街のコンシェルジュが一軒ずつを訪問、
街への不満、要望を聞き取り
2009年(平成21年)から始まった、街のコンシェルジュとしてのエリアマネージメントグループの活動も他の街では見られないもののひとつ。3人のスタッフでエリア内の約7000世帯を年に3回訪問しており、街への不満や要望などを細かく吸い上げているという。実際に訪問を担当する新井将晃さんによると「1日50軒ほど訪問するものの、お目にかかれるのは20~30軒ほど」というが、その地道さも他にない。駅に隣接するホテルも同社が経営しており、街のリビングダイニングとして機能している。このほか、経営破たんしたビジネスホテルチェーンが傘下にあり、そこを通じて震災時には米を調達したそうだ(クリックで拡大)
こうした結果、住民の要望もあれこれ出てくるようになってきたと新井さん。しかも、要望を聞くだけでなく、それを実現させようともしており、「焼きたてのおいしいパン屋さんが欲しいという要望があり、5年ほどかかりましたがようやく今度出店してもらうことになりました」。住民からの要望で街が変わると分かれば、住民の街への愛着は深まるはずである。
もちろん、こうした活動は同社の営業にも繋がっている。「台風で屋根の一部が剥がれたなど、こうした活動がなければクレームになりがちな案件がリフォームの相談という形になるなどの事例が出てきています。ただ、上からは営業するなと言われており、場合によっては1日、話し相手になっていることも」。
一戸建ての場合、管理組合もなく、購入後のアフターサービスも形式的になりがちで、ともすれば売りっぱなしで放置されている感を抱いてしまうことにも。ところが、ユーカリが丘では土地だけ買って家を建てた人でもこうしたサービスを受けられる。
水田に遺跡、公園、市民農園、
自然と触れ合えるスポットも多数
自然の豊富さ、原風景の維持されぶりも他に例がない。輪を描いて走るユーカリが丘線の真ん中には井野の森と呼ばれる、元々のこの地の原風景を残したエリアがあり、そこには水田も。手入れの行き届いた水田の遠景にタワーマンションが広がる風景はここならではだろう。この水田では、地元の子どもたちが地主さんと一緒になって田植えをし、収穫祭を行うそうで、直接米を買うこともできるとも。
井野の森中心部には平成30年に創建1300年を迎える稲野山千手院なる古刹もあり、森閑とした雰囲気が味わえる。
それ以外にもエリア内には30カ所を超える公園があり、農業体験ができる市民農園、クラインガルテンも。都会と田舎ののんびりした風景、どちらもが味わえる街なのだ。
大学誘致計画も進行
都心へ1時間弱のこの街ではまだまだ変化が続く
イオンタウン建設のほか、この街でもうひとつ、現在進行しているのが順天堂大学スポーツ健康科学部の誘致。順天堂大学は佐倉市が発祥。そこで現在も駅前に同大学のヘルスプロモーション・リサーチ・センターも設けられており、その縁で駅近くの土地への誘致を進めているのだ。エリア内には和洋女子大学のセミナーハウスもあり、学生が増えれば街はさらに若返る。
ちなみにエリア内には単独のクリニックの他、クリニックモール、訪問診療を行うクリニックなどが点在しており、医療環境は充実している。周辺には東西南北に東邦大学医療センター佐倉病院、日本医科大学千葉北総病院などの総合病院があり、先進医療が必要な際にも心強い。
以上、日本では珍しい、街の「成長管理」が行われている街、ユーカリが丘を見てきた。外から見ているだけではそれほど変わった場所には思えないが、仕組みを知ると他との違いがよく分かる。
都心からは千葉、八王子などとほぼ同じ38キロの位置にあり、東京都心部までの電車での所要時間は40~50分。都会のしゃれた雰囲気を望む人には物足りないかもしれないが、暮らしの実質、豊かさと長く住み続けることを考えるとメリットは大きい。成田が近く、周囲に病院が多いことから医師や海外での仕事が多い人の居住も少なくないそうで、街の雰囲気も含め、一度、訪ねてみる価値はある。