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ユーカリが丘、独自に価値を維持し続ける街

千葉県佐倉市に民間企業が40年以上にわたって開発を続けている大規模な街、ユーカリが丘がある。他の街にない仕組みで成長を持続し、時代に合わせた変化が続く街の独自性、魅力を現地で見てきた。

中川 寛子

執筆者:中川 寛子

住みやすい街選び(首都圏)ガイド

自然と都市機能の調和した街をめざし、
開発が持続されてきたユーカリが丘

コアラ

街のあちこちにコアラの像や絵が点在。のんびりした街の雰囲気にふさわしい。このコアラは駅向かいの商業施設の中に(クリックで拡大)

千葉県佐倉市西部。森と畑、田んぼが広がる約245haという広大な土地に新しい街を開発する計画が持ち上がったのは1971年(昭和46年)のこと。当時は大気汚染、水質汚濁や騒音など高度経済成長で悪化した環境が社会問題となっており、この地の開発計画は自然と都市機能が調和した街であることを目指すものとされた。街の名称、ユーカリが丘は空気を清浄に保ち、殺菌作用のあるオーストラリアユーカリの木にちなんだもので、街のあちこちにユーカリの木、そしてコアラがあしらわれているのはそのためである。

 

会社

駅から少し離れたところにある山万の営業所。早い時期から中古流通、リノベーションにも取り組んできており、エリア内の様々な住宅を取り扱っている。街の解説映像なども見られる(クリックで拡大)

開発を計画したのは元々は大阪で繊維業を営む会社としてスタート、その後、東京に移転、1965年(昭和40年)から宅地開発を始めた山万。最初に開発したのは横須賀にある日本で初めての住居表示にカタカナ地名が採用された湘南ハイランドである。ちょうど、住宅需要が急激に伸びた高度経済成長期でもあり、同社は大きく発展。続いて手掛けたのがユーカリが丘だった。

 
この街で特筆すべきは44年前から現在に至るまで、その同じ会社がこの街を見守り続けているということ。一般的な宅地、ニュータウン開発であれば開発した会社は分譲終了後に撤退、その後のことは住民に任される。そのため、ニュータウンは一気に開発され、同じ年代の人ばかりが集まることになる。多摩ニュータウンその他で高齢化率が異常に高いのはそのためである。また、開発後は時代に合わせた街のチューニングが行われることがないので、女性がこれだけ働くようになることを想定していなかった時代に作られた街には子育て支援施設はないし、車社会到来を予想しなかった街には駐車場はなく、高齢化が問題になっていなかった時代に作られた街には高齢者施設もない。

駅構内の市出張所

駅構内にある佐倉市の出張所。佐倉市の人口17万5000人強の1割がこの街に住んでいる(クリックで拡大)

だが、ユーカリが丘では開発者である山万が住宅の供給数をコントロール。1980年(昭和55年)の入居開始以来35年にわたり、年間約200戸だけを市場に供給してきた。総計画戸数は約8400戸としており、2015年度(平成27年度)4月末時点の人口は約18000人、7200戸。一気に開発されていないから、幅広い年代が居住しており、現在の住民の中心は30~40代。まだまだ、これからも住宅は供給される予定で、当然、今後もエリアの年齢構成は極端に偏ることはないはずだ。

 

時代に先駆けて子育て支援施設、
高齢者向き施設を整備

駅前保育園

駅のすぐ脇にある保育園。他路線での駅前保育園が出てくる以前に作られた。エリア内には他に2カ所の保育園がある(クリックで拡大)

また、一気に開発をしていないため、そこここに常に未分譲の土地がある。山万ではそこを上手に利用、時代によって必要とされる施設を順次作り続けてきてもいる。たとえば、ユーカリが丘では街に人を呼び込む大きな要素として教育、子育てを大事にしている。子どものいる家庭にとっては最大の関心事だからで、そのため、1999年(平成11年)には他の街に先駆けて駅前に保育園が作られた。駅前ながら園庭もあり、その双方が揃っていることが話題になった。同保育園は当初認可外としてスタート、2004年には千葉県内で初めて民間会社が運営する認可保育園として認定を受けてもいる。

 

その後、全天候型の子どもたちの遊び、学びの場として総合子育て支援センターを作ったり、認可保育園を作るなど、年々、施設を拡充。将来的には学童保育のような既存の仕組みのほか、域内に住むシニア世代、大学生、留学生などをスタッフとした学びの場も作っていく予定とか。一度に全部を分譲してしまった場所ではできないやり方である。

ちなみに、こうした子育てに良い環境が評価され、ユーカリが丘では子育て世帯が多く居住、子どもの数が増えているとして、最近もNHKの番組で取り上げられたほどである。

サ高住

こちらは街中にあるサービス付き高齢者向け住宅(写真左)。入居申し込みをしている人の8~9割は地元の人という(クリックで拡大)

近年では高齢者向けの施設を充実させてきている。2002年(平成14年)にはエリア北側にある約15haを「福祉の街」にすることを発表、着々と施設を増やし続けている。しかも単に医療・福祉施設のある高齢者だけのエリアというのではなく、多世代の交流があり、在宅介護の基地としての機能、教育機関なども備えたものになる予定とか。

 
すでに作られた施設の中に認知症の高齢者が暮らすグループホームと学童保育を併設した千葉県では初めての幼老統合型施設があると聞けば、その先進性がお分かりいただけるだろう。福祉の街以外の住宅地内にもサービス付き高齢者住宅があるなど、多様性重視は高齢者向け施策にも共通しているのである。

ユーカリが丘のトマト

複数のミニトマトが栽培されており、いずれも甘くて美味しい。地元でしか手に入らないのが惜しいところ(クリックで拡大)

最新の、時代に合わせた施設としては2013年(平成25年)に設立された農業生産法人によるトマト畑がある。ここでは複数の、ミニトマトが栽培されており、糖度が高く、新鮮でおいしいと地元ではスーパー店頭などに並ぶと売り切れ必至の人気とか。エリア内のホテルでも供されており、地域のミニトマト需要(?)を一手に引き受けているとも言えるほど。

 
トマト農園

働いているのは地域に住んでいる人たち。通勤に時間を取られない分、働く人にとってもメリットは大きい(クリックで拡大)

しかも、面白いのはこの畑が生まれたことで、地域に雇用が生まれているという点。前出の福祉の街も同様で、地域に住む高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けられるようになったことに加え、少なからぬ雇用も創出しているのである。住んでいる人にとってはここは職住を近接できる街でもあるわけだ。

 
さらにこの街には他の街にない施設、仕組みが多数ある。以下、街の様子を見ながら紹介していこう。

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