『アラジン』観劇レポート
“圧倒的な絢爛豪華”の中で展開する
濃厚なコメディと人間ドラマ

『アラジン』(C)Disney

『アラジン』(C)Disney

青年アラジンのサクセスストーリーを疾走感たっぷりに描いて大ヒットした、1992年のディズニー・アニメ『アラジン』。それから20年以上を経て登場した舞台の日本版が、ブロードウェイに次ぐ初の海外版として開幕しました。作曲家のアラン・メンケンや演出家のケイシー・ニコロウは稽古を観て「『アラジン』は日本にぴったり」と口を揃え、それほど劇団四季版の完成度に満足していることをうかがわせましたが、実際の舞台はなるほど、四季の特性を存分に生かし、また同時に劇団にとって本作の挿入歌タイトル(「A Whole New World=全くの新世界」)ばりに、新たな次元を拓く舞台に仕上がっています。

おそらく本作において最初に観客を圧倒するのは、視覚的要素でしょう。庶民の世界である市場にはヴィヴィッド・カラーが渦巻き、王女ジャスミンの住む王宮は高貴な白に統一と明確に色分けされた上で、どちらのセットも左右対称にデザインされ、非日常的な美が強調されます。(演出のケイシー・ニコロウはこの「左右対称」について、主人公など登場人物へのフォーカスをしやすくするためとインタビューで説明。)

また緞帳や王宮のセットには精緻なイスラム文様があしらわれているものの、振付においては「せっかく架空の都のおとぎ話なのだから」と単一の文化に限定せず、コサックダンス、ボリウッド映画風ダンスなど、ケイシー曰く「情熱的という共通要素のある」要素を盛り込んだダンスを展開。よりクリエイティブかつ普遍的なイメージを作り上げ、その上で登場人物たちの衣裳にこれでもかというほどビーズ等、光に反射する素材をあしらい、めくるめく幻惑的な世界に観客をいざないます。

序曲に引き続いてまず登場するのは、水先案内人役のジーニー。筆者が観た日に演じていた瀧山久志さんはちょんまげ風の鬘がしっくりとなじみ、登場した瞬間から頼もしいオーラを放ちます。日本ネタも飛び出す彼のお茶目なトークから、本作の概要を紹介する大ナンバー「アラビアン・ナイト」へと発展し、架空の都アグラバーの人々がアクロバットやマジックの趣向もちりばめながら歌い、舞い踊る(躍動感が漲りつつ一糸乱れぬアンサンブルのダンスも、本作のシンメトリカルな美的センスを際立たせます)。ゴージャス感極まりない幕開けに引き続き、物語はアラジンが城からお忍びで外出していた王女ジャスミンと出会って惹かれあうものの、悪者ジャファーの企みで魔法の洞窟に赴き、ランプの精ジーニーと出会うことで人生が変わってゆく様を描いて行きます。
『アラジン』(C)Disney

『アラジン』(C)Disney

『アラジン』というと物語上もすぐにジーニーが絡んでくる印象がありますが、実際のところ前半は盗人稼業をやめようと決意するアラジン、王の強いる結婚などせず、自由に生きたいと願うジャスミンそれぞれの思いと、二人が出会うことで生まれる化学反応をじっくりと描写。この日演じていたアラジン役・島村幸大さん、ジャスミン役・岡本瑞枝さんの力強く、みずみずしい演技が役にリアリティを与え、現代の観客の心を掴みます。いっぽう悪者ジャファーとその手下イアーゴ(この日はそれぞれ牧野公昭さん、酒井良太さん)は“いかにも大悪人”の空気を醸し出していて、好対照。威厳ある王でありながら娘を溺愛するサルタン役(この日は石波義人さん)もいい味です。

しかし今回、とりわけ劇団四季の“新たな時代”を感じさせる存在といえば、アラジンの盗賊仲間であるカシーム、オマール、バブカック(筆者の観た日は順に西尾健治さん、斎藤洋一郎さん、白瀬英典さん)の3人組。作品のかなりのコメディ要素を受け持つ彼らは、個性豊かで台詞においてはくだけた口語表現も口にし、その応酬の間合いもスピーディー。オーディションの折に演出スーパーバイザーのスコットが「(間を)詰めて、詰めて」と再三リクエストを出していたことが思い出されますが、オリジナル・スタッフと日本側スタッフとの間で議論を重ね、俳優たちも試行錯誤をした成果なのでしょう。日本のどの世代の観客が観てもついてゆける“ジャスト”のスピードで、コミカル・シーンを楽しく見せてくれます。四季独自のメソッドを活かし、言葉はしっかり聞かせるため、コメディにありがちな「一回観ればいいや」と思えるようなチープな笑いではなく、リピート鑑賞に耐えうる演技となっているのが嬉しいところ。後半にはこの3人組が大活躍するシーンもあり、終幕までに多くの観客が彼らのファンになっているかもしれません。
『アラジン』(C)Disney

『アラジン』(C)Disney

もちろん舞台には数々の魔法が登場し、「回転するスッポン」のようにアナログな仕掛けが楽しいものから、いくら目を凝らしても謎でしかない「魔法の絨毯」まで様々な趣向が凝らされてはいるものの、最終的に感動を呼ぶのはアラジンとジーニー、ジャスミンと父、そしてアラジンとジャスミンの人間ドラマ。登場人物たちが物理的に空を飛んでいるからではなく、人間的な成長を遂げる様を見守ることで、観客が爽やかな浮遊感を抱くことができる舞台となっています。

「A Whole New World」の訳を「新たな世界」ではなく、その意図するところの核を汲み、敢えて「自由」とした今回の日本版(訳詞は『アナと雪の女王』も手がけた高橋知伽江さん)。無限の可能性を感じさせるこの語をキーワードに、今後ロングランの過程で舞台がどのように深化してゆくか、楽しみでなりません。

*次頁で本作の演出・振付家ケイシー・ニコロウさんのインタビュー記事をお送りします!