15世紀フィレンツェで活躍した2人の芸術家、因縁のライバル ブルネレスキとギベルティ

大聖堂

手前がサン・ジョヴァンニ洗礼堂 隣接する大聖堂と奥に写るクーポラ


フィレンツェ大聖堂の隣に建つサン・ジョヴァンニ洗礼堂は、東、南、北の三方に入口があり、いずれの門扉にもブロンズの浮き彫りが施されています。中でも大聖堂に面する東側の門扉は、ミケランジェロが「天国の門」と呼ぶほど絶賛され、今でも多くの観光客が集まります。一方、花の都フィレンツェの象徴であり「花の聖母」と名付けられた大聖堂のドゥオーモは、その高度な設計技術と完成度の高さから、芸術家たちからも絶大なる称賛を得ました。後年、ヴァチカンのサン・ピエトロ大聖堂クーポラの設計を依頼されたミケランジェロは、「フィレンツェのクーポラより美しいものは造れない」と答えたと伝えられています。ミケランジェロが称えた門扉とクーポラ建設をかけて熾烈なプライド争いを繰り広げた2人の芸術家、ブルネレスキとギベルティにまつわるエピソードをご紹介します。

フィレンツェに今でも残る多くの建築には、ルネサンス時代の人々の願いや様々な逸話が秘められています。知識豊富なガイドと歩き、それぞれの建築にまつわる人間味あふれるエピソードを知れば、より深くフィレンツェを味わうことができるでしょう。

若き芸術家たちの最高傑作 ルネサンス建築を代表するサン・ジョヴァンニ洗礼堂と大聖堂のクーポラ

野心を抱いた若き芸術家たちがこぞって集まり、才能を競い合って芸術の新時代、ルネサンスを築いた15世紀のフィレンツェ。現在でもフィレンツェの象徴である大聖堂のクーポラは、そんな芸術家たちのプライドをかけた争いや巧みな駆け引きの中から建設されました。ルネサンス幕開けの時代に活躍した芸術家たちの、人間味あふれるエピソードをご紹介します。

■サン・ジョヴァンニ洗礼堂の門扉「天国の門」を制作した彫刻家 ギベルティ
天国の門

天国の門と呼ばれる洗礼堂の東門扉 10枚の浮き彫りにより旧約聖書が描かれています

大聖堂が建設途中の1401年、サン・ジョヴァンニ洗礼堂の第二門扉の作者を選ぶコンクールが開かれました。栄誉ある制作者を決める方法はフィレンツェ市民たちが審査するコンペ、課題は旧約聖書の「イサクの犠牲」をテーマにした浮き彫りです。若き芸術家たちが1年かけて制作し腕を競い、最終審査に残ったのは当時23歳のギベルティと、24歳のブルネレスキでした。両者の作品は優劣つけ難くコンペの結果は同時優勝となり、洗礼堂の門扉も2人の共同制作として決定されます。しかしこの結果に満足できなかったブルネレスキはコンペを辞退し、失意のうちにフィレンツェを去り彫刻家への道を断念したのでした。一方フィレンツェ市民の支持を受けたギベルティは、21年もの歳月をかけて1人で第二門扉を制作し、さらに24年を費やして第三門扉も完成させました。ミケランジェロが「天国の門にふさわしい」と称えたこの扉は現在はレプリカに置き換えられ、実物はフィレンツェ大聖堂付属美術館で見ることができます。また若き2人の彫刻家がコンクールで腕を競った作品「イサクの犠牲」は、国立バルジェッロ博物館に残されています。2人の人生を決めることになった両作品が、現在でも競い合うかのように展示されています。


■フィレンツェ大聖堂のクーポラを設計した建築家 ブルネレスキ
クーポラ

二重構造として建設されたクーポラの内部を通り、頂上まで登ることができます

ギベルティが洗礼堂門扉の制作権を勝ち取った17年後の1418年、フィレンツェでは次なるコンクールが開催されました。洗礼堂の隣に建つ大聖堂の、巨大なクーポラの設計権を巡るコンペです。大聖堂の大部分が完成したものの、直径42メートルという巨大なクーポラの建設が難航していたため、新たな建築方法を募るためのコンペでした。そしてこの大事業の責任者として任命されたのが、41歳となっていたブルネレスキでした。彫刻家の道を断念した後、ローマで古典建築の研究に没頭した17年間の成果がついに認められたのです。しかし再び共同責任者として任命されたのが、因縁のライバル、ギベルティでした。門扉の制作で成功を収めた彫刻家のギベルティは、当時のフィレンツェ市民に最も信頼が厚かったため同時任命とされたのでした。建築家としては素人のギベルティと共同責任者となることは、ブルネレスキには当然納得できなかったに違いありません。しかしブルネレスキがとった手段は今度は辞退ではなく、仮病を使いあえてギベルティに指揮を執らせることでした。設計における判断を誤り重大な失敗を犯したギベルティは、建築家としての素人ぶりを暴かれついには責任者を解任されてしまいます。そして悠然と復帰したブルネレスキは「クーポラを二重構造にする」という画期的な設計により、見事クーポラを完成させ、約20年前の雪辱を果たしたのでした。



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