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『火花』を読んで考えた、ポスト・ダウンタウンの誘惑(2ページ目)

又吉直樹の小説『火花』に登場する主人公の1人、神谷のように笑いで世界を変えようと目論む若手芸人は、リアルに存在します。はてしなく遠い道を、若者達はなぜ歯を食いしばって進むのか?

広川 峯啓

執筆者:広川 峯啓

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新しい笑いが世間に受け入れられる「奇跡」

繰り返しになりますが、ダウンタウンが新たな笑いの世界を切り拓き、トップクラスの人気者になったことは、間違いのないところです。しかし、松本人志自身はそうなったことを、ある種“奇跡のように感じた”と、インタビュー集「松本裁判」の中で語ってます。

最高の笑いを生み出した自信があっても、それが広く世間に受け入れられるかどうかは、実際やってみるまで判断が付かなかったと言います。少なくても日本国内においては、新しい笑いよりも昔ながらの安定した笑いの方が受け入れられやすい傾向があるからです。

結果論になりますが、松本が生み出した新たな笑いを、ツッコミという形を使って、浜田が安定した笑いに変換したことで、お笑い界の頂点に君臨できたと言えます。一歩間違えば、一部に熱狂的なファンを持つマニアックな漫才師と見なされ、一般的な評価を得られていなかったかもしれません。


天才じゃないと自覚してからが本当の勝負

これほどの苦労を判っていたら、わざわざ“ポスト・ダウンタウン”を目指すなんて無謀な真似は出来ないと思ってしまいます。一方で、お笑い養成所に入って周りを見渡して、自分の実力が他を大きく上回っていることに気づいた時、笑いの世界の前人未到を目指したくなる気持ちは理解できなくもありません。

夢を見るのは若さの特権であり、可能性は決してゼロではない。ただし、すぐれた冒険家ほど勇気ある撤退を実行できるものです。未知の笑いの世界を目指して、行ける所まで突き進んでいる時にも、決して状況判断をおこたることなく、常に勇気ある撤退を視野に入れておくべきでしょう。

例えば、ダウンタウンの作り上げた笑いを換骨奪胎して自分のものにしても、それは立派な創作活動です。実際やってみれば気づく筈ですが、広く一般に普及している笑いの公式をアレンジして、観客が笑えるものを作り出すことだって、充分すぎるほどクリエイティブでエキサイティングで、人生を掛けられる仕事なんですから。
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