『64(ロクヨン)』で見せた新しいピエール瀧
2016年には映画が公開される『64(ロクヨン)』ですが、NHKのドラマ版では主人公の実直な広報官・三上義信をピエール瀧が見事に表現しています。広報官という”間”に立つ仕事は、あらゆる立場の主張を調整する立場。狭間に立ちながら、迫られることばかりです。その姿は、実社会の職場や家庭で私たちが日ごろ感じている苦悩や葛藤と近く、非常に親近感を抱きますし、共感もできます。八頭身のスリムな人物でないところが、作品のリアリティーを高めたとも言えます。
個性を解き放つのではなく、グッと個性を押さえながら仕事をまっとうする三上義信にピエール瀧の新しい変化を見たように思います。
人生の面白さを等身大で感じさせる
俳優という仕事は演技だけを見られるわけではない。演じている役柄だけでなく、俳優として成長している過程や、俳優となる前の活動についても、視聴者が知っていることも少なくありません。音楽活動を中心にパフォーマンスを繰り広げていたユーモアあふれるピエール瀧が、俳優として頭角を現すまでの過程に人生を感じる人もいるでしょう。間もなく50歳という年齢で、なお新境地を開拓し続けるピエール瀧を体感しながら、人生の面白さや素晴らしさを感じてしまうのです。自分の人生と照らし合わせながら、「まだまだやれるんじゃないか」とか、「肩のチカラを抜いて楽しんでしまえばいいんじゃないか」と考えることもあります。
それは特別感のない俳優ピエール瀧だからこそなせるワザ。人生を生きる同志として身近に感じるピエール瀧に、共感でき魅せられるのです。
日本の風景が似合う俳優であり、どんな時代も似合ってしまう俳優ピエール瀧が、数年後も今の印象と同じかどうかはわかりません。もしかすると、メロウなラブストーリーを演じているかもしれないし、戦隊ドラマの司令官になっているかもしれません。
ただひとつ言えることは、彼は間違いなく俳優という仕事を楽しんでいるだろうということ。そして、さらに変化したピエール瀧を見ながら私たちもドラマを楽しんでいるだろうということです。