伝統の「本葦(ほんず)製法」を今に伝える茶園 孫右ヱ門
株式会社孫右ヱ門
代表取締役 太田博文さん
(画像提供/孫右ヱ門)
孫右ヱ門は、220年以上も前から代々京都府城陽市で茶園を営んでこられました。今ではたいへん珍しい、安土・桃山時代から受け継がれた伝統的製法「本簀(ほんず)製法」を伝承されている、日本でも数少ない茶園です。この製法によって、最もハイクォリティの抹茶をつくることが知られています。
孫右ヱ門が生み出す碾茶は、農林水産大臣賞(平成19年)を初め、知事賞(複数年)や全国品評会にて、毎年のように多数の受賞しており定評があります。
現在一般的な茶園で被覆をする場合、化学繊維でできた寒冷紗で茶畑を覆います。孫右ヱ門でも寒冷紗による被覆栽培もしており、もちろんこの寒冷紗でも、旨味と甘みのある碾茶をつくることはできます。しかし、より高いクオリティを追求していくと、本簀製法にいきつくのだと太田さんはいいます。
今の日本では限られた茶園でしか行われていない本簀製法は、高度な「わら振り」の技術が必要です。
(画像提供/孫右ヱ門)
現在は鉄パイプに変わりましたが、以前は杭を立てて竹で縛って下骨を立て、その上に葭簀を広げ、日光を遮ります。霜などの天候によっては、そのタイミングも図らなければなりません。
さらに「わら」を均等に振り広げて層をつくり、徐々に日光を遮ります。この作業を「わら振り」と言います。
この「葭簀」と「藁」の絶妙な光のコントロールによって、茶の新芽は、より日光を求めようと葉を薄くして表面積を広げようとした結果、柔らかくなり石臼で挽きやすくなります。また葉緑素も増えて鮮やかな緑色になり、「覆い香」という独特の気品のある香りが生まれるそうです。
この「本簀製法」は、面積の割に少量しか収穫が出来ず、コストパフォーマンスはよくありません。さらに「わら振り」の作業は、実はたいへん高度な技術が必要で、誰でも簡単にできるものではなく、良質の「わら」や「よしず」の入手も困難となっています。
碾茶ならではの旬の見極め
煎茶と違って、葉が丸く薄くなるまでしっかり肥料を与え、覆をかけておくことで、独特の旨みと香りが生まれます。
(画像提供/孫右ヱ門)
孫右ヱ門では、最も旨味の多い一番茶しか摘みません。茶摘みの時期が限られる上、丁寧な手摘みにこだわるだけに、多くの人手が必要となります。
煎茶と碾茶では摘む時期は異なり、煎茶の方がやや早く摘み始めます。煎茶の摘み方の目安として「一芯二葉」が出た頃が、匂い立ちもよく味もあります。一芯三葉以上になると硬くなって揉みづらくなるため、旨みを引き出しにくくなります。
一方碾茶は、被覆製法による独特の「覆香」を十分につけ、味をまろやかにするために、煎茶よりも新芽をもう少し長くおいて葉が丸くなるまで成長させます。若い新芽は尖った形状は蒸すと折れやすいのですが、丸くなると折れにくくなり、無駄が少なくなります。
一定の大きさに成長するまで被覆したっぷり肥料もいれなければなりません。旨味を出すために多くの肥料が必要です。孫右ヱ門では、ニシンやイワシなどを使った有機肥料を贅沢に使用しています。手間もコストもかかりますが、それだけの香りや旨みが増え、クオリティの高い碾茶に仕上がるのです。