司法書士試験/司法書士とは

司法書士試験講師が厳選!知的好奇心を満たす「学者本」

学者本というと、難しくてとっつきにくいイメージですが、法律の学習経験がある方にとっては読みやすいものもあり、学者が書いているだけあって知的好奇心をくすぐるものが多数あります。それらを司法書士試験の試験科目ごとに紹介します。

松本 雅典

執筆者:松本 雅典

司法書士試験ガイド

私は司法書士試験の講師をしていますので、講義の予習や教材作成などのために毎年何十冊もの学者本を読みます。「学者本」とは、法学部や法科大学院の教授が書いた本です。
この記事では、司法書士試験の試験科目ごとに、読み進めるにつれその法律の理解が進み、その法律の深い世界に入っていける「知的好奇心を満たす学者本」をご紹介します。


【選定基準】
読んで面白い学者本・基本書

読んで面白い学者本・基本書

1.試験対策としてではなく「知的好奇心をくすぐるか」という視点でセレクト
司法書士試験用に書かれた学者本はありませんので、試験対策としてはお薦めできません。試験のためではなく、「法律の世界を深く味わいたい」という方のために選びました。よって、学者本は勉強の合間や合格後にお読みください。

2.原則として各科目1冊
原則として司法書士試験の試験科目の順ごとに1冊選びましたが、科目によってはふさわしい学者本がないため、紹介できないものもあります。


憲法

・『憲法』(青柳幸一)

憲法は歴史の反省からできているものですが、この本は他の本に比べ、歴史の話が豊富です。ときに世界史の本を読んでいるような感覚になり、単純に読み物としても面白いです。
また、基本的に判例の移り変わりがわかるように判例が掲載されているので、これまで憲法で学習した判例を時代の流れに沿って整理することができるでしょう。

なお、この本は憲法の「人権」と「統治」の双方を含むものですが、「とりあえず人権だけ読んでみたい」という方には、同著者の以下の本をお薦めします。


・『わかりやすい憲法(人権)』(青柳幸一)

この本は、人権のみですが、「歴史の話が豊富」「判例の移り変わりがわかる」という点は同様です。


民法

・『リーガルベイシス 民法入門』(道垣内弘人)

「民法入門」とタイトルにありますが、ローマ法までさかのぼった民法の歴史まで書かれています。
また、民法の制度が現在の社会でどのように使われているかの説明が多いので、飽きることなく読み進められます。それだけでなく、この著者の文章は読んでいるとどんどん引き込まれていくので、自然に読み進めてしまいます。


刑法

・『入門刑法学・総論』(井田良)
・『入門刑法学・各論』(井田良)

司法書士試験では、刑法について本格的な学習はしません。「本格的な学習」とは、「刑法は何のためにあるか」ということから理論的に刑法を学習していくことです。
この本は、法学部に入ったばかりの刑法を初めて学ぶ学生を対象としていますので、司法書士試験以外で刑法の学習をしたことがない方にはちょうどよいと思います。「刑法は何のためにあるのか」から始まり、刑法の理論が基礎から説明されています。
また、各テーマが20ページ前後となっており、あまり細かい知識には立ち入らず基本理論が説明されています。脚注には細かい内容もありますので、最初は脚注は飛ばして読んだほうがいいでしょう。脚注を飛ばしても本旨はつかめますし、流れが途切れずに読むことができます。


会社法

『会社法(LEGAL QUEST)』(伊藤靖史、大杉謙一、田中亘、松井秀征)

この本は、まず、各制度の理由付けが豊富に記載されています。
そして、何よりもこの本の秀逸な点は、「コラム」です。コラムに、会社法の制度を実際にどのように使うのか、実際の事件を豊富に紹介し、説明がされています。このコラムが読んでいて非常に面白いです。
また、学者本では珍しく「条文索引」がついている点も、評価できます。後に調べ物をするときも、利用しやすい1冊となります。


民事訴訟法

『基礎からわかる民事訴訟法』(和田吉弘)

この本は、民事訴訟法の条文順ではなく、基本的に民事訴訟の第1審の手続の順に従って説明がされています。好みは分かれますが、私は、条文順ではなく、実際の手続の順に従った説明のほうがわかりやすいと思います。
また、学者本には珍しく図表が非常に多いです。見開き1ページで図表がないページのほうが少ないのではないかというくらい多いです。
著者が元裁判官であるため、実務の話がリアリティーを持って書かれており、イメージしやすいのも読んでいて飽きません。


民事執行法・民事保全法

『実践 民事執行法民事保全法』(平野哲郎)

民事執行法・民事保全法は、とっつきやすい本が少ないのですが、この本は理由付けや具体例が豊富ですので、読みやすいです。
巻末に民事執行・民事保全関係の文書(競売申立書など)が掲載されていますが、これはストーリーに従って掲載されており、すばらしいです。
また、『会社法(LEGAL QUEST)』と同じく、コラムがすばらしいです。専門家でも民事執行・民事保全の手続はイメージしづらいのですが、民事執行・民事保全の手続がイメージしやすくなるような実務の話が多数書かれています。なんと執行官の平均年収なども書かれています。


不動産登記法

『不動産登記法』(山野目章夫)

不動産登記法の学者本がほとんどない中で、不動産登記法を体系的に説明した概説書です。
実務に必要な不動産登記に関する先例や登記研究の知識を増やすという趣旨ではなく、記憶量に走りがちな不動産登記法を、学者の一貫した視点から見てみるという点で読みごたえがある本です。


商業登記法

『商業登記ハンドブック』(松井信憲)

商業登記で現在最も有名な本です。登記の審査をする登記官も参照している本であり、商業登記の実務をするには必ず読まなくてはならない本です。
平成27年5月末に発売された第3版では、平成26年改正会社法や平成27年の改正商業登記規則などにも対応しているので、最新の法改正も含め安心して使用することができるでしょう。


司法書士法と供託法については、今回の記事の趣旨(知的好奇心をくすぐる学者本)では、紹介できる本がありませんでした。

純粋に法律を楽しむ時間の取れる方は、これらの本で法律の深い世界に入ってみませんか?
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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