心に沁みる、人生についてのアフリカの格言
『ミス・サイゴン』写真提供:東宝演劇部
「自分でも信じられないのですが、僕は今年50代という年代に入って行きます。気が付けば一緒にやる仲間がどんどん年下になっていくなかで、これまでは“人と人がつながってどれだけ感動を分かち合えたか”が大切だと思ってきたけど、それと同時に、“どれだけその人たちと繋がって、より遠くへ行くのか”が大事かなと思うようになったんですよ。
アフリカの格言に“If you want to go fast, go alone. If you want to go further, go together.早く行きたければ一人で行きなさい、より遠くへ行きたければみんなで行きなさい”というのがあって、人生も人間も、こういうことだなあと思うんです。早く行くことが大事かというと、ちょっと待てよ。より遠くへ、ゆっくりでもいいからみんなで行ったほうが楽しいんじゃないかなという心境に、ここ数年なってきましたね」
――みんなで集まって何かを創るというようなことでしょうか?
「映画祭も舞台もそうですが、僕がこれをやりたいんだという求心力で人を集めるというより、僕はこれをやりたいけどみんなのやりたいことも、お互い手伝ってより遠くへ、着実に行こうよ。きらきら話題になるというより、じっくり、気が付けば何にも代えがたいものになるということを、多くの人と積み重ねたい、というようなことですね」
――ミュージカルの創造についてはいかがでしょうか。例えば韓国では積極的にオリジナル作品を作って輸出しようという動きがあります。
「やっぱり積極的に外に向かって発信したいですよね。言葉なんてしゃべれなくてもいいんですよ。思いがあったら、それを受け止めてくれる人がいっぱいいるのは、僕も経験して知っています。短編映画祭では、何のコネもないのにジョージ・ルーカスに勝手にメールして、熱意に応えていただけたことがありました。
日本の演劇も、ガラパゴス的な状況もいいのかもしれないけど、もっともっと遠心力で、外に向かって作っていってもいいですよね。国境を越えていくというのがミュージカルでの僕の一つのテーマなので、今回の『シャーロック ホームズ2』のような韓国ミュージカルに触れると、正直、同じアジアに住まう人間として羨ましいです。ソウルでは日本人も大勢ミュージカルを観にきていて、アジアのブロードウェイ化みたいなことが始まっているし。シンガポールとかマカオに行ってもそういうエンタテインメントがある。でも、海外から東京に来た人が観劇となると、歌舞伎のような古典芸能に限定されているとしたら、エンタテインメントに身を置いている人間としては、何とかその壁を…と思います。
今後、そういう思いのある人たちのメンバーの一人になったりとか、場作りをやりたいですよね。日本にも素晴らしいミュージシャンはたくさんいますし、既に行われている2.5次元のアニメ的なミュージカルとか、新たな潮流を作っていくことが出来ると思います。日本にも面白い素材、いっぱいありますよ!」
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“そのジャンルではないこと”を経験することが、何かを極めることに繋がるような気がする、そしていろいろな仕事が錯綜したとしても、その根っこにあるものは同じだ、という別所さん。常人には難しく見える「二足、三足のわらじを履きこなすコツ」は、実は物理的な仕事量ではなく「心の持ちよう」にあるのかもしれません。豊かな人生経験を着実に演技に生かしてこられた別所さんが、今後「皆で、遠くへ」のスピリットでどんな「何も代えがたいもの」を築いて行くのか。そんな期待も抱きつつ、まずは『シャーロック ホームズ2』での、彼念願の刑事役を見守りましょう!
*公演情報*『シャーロック ホームズ2 ~ブラッディ・ゲーム~』4月26日~5月10日=東京芸術劇場 プレイハウス 5月16~17日=キャナルシティ劇場 5月21~24日=兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
*次頁で『シャーロックホームズ2』観劇レポートを掲載しています!