醤油や塩水の飲み過ぎによる死亡リスクとは
身体の正常な働きの維持に欠かせない塩分。しかし塩水や醤油を飲み過ぎると「高ナトリウム血症」による死亡リスクもあります
過去には、醤油の飲み過ぎにより19歳の少年が瀕死の昏睡状態になるという報告があります。
「米国でしょうゆ約1リットルを飲んだ19歳の少年が、ナトリウムの取り過ぎで瀕死の昏睡状態となった。その後、医師たちが工夫した治療法のかいがあって、後遺症もなく回復したとJournal of Emergency Medicine誌に報告された」
上記の少年は医師たちの懸命な治療により幸いにも一命をとりとめ、1カ月後には大学に復帰したそうです。このように、血液中の塩分濃度(ナトリウム濃度)が急激に上昇することで、致命的な状態になることは成人の場合でもあります。
「のどが渇いても海水を飲んではいけない」ということを聞いたことがありませんか? 塩分が濃いものを飲み過ぎてはいけない理由を、以下で分かりやすく説明します。
塩分の身体への影響は? 海水を飲んではいけない理由を例に
海水の濃度は約3%。体液中の塩分濃度(ナトリウム濃度)は約0.9%です。「海水のナトリウム濃度」の方が「体液中のナトリウム濃度」より濃い(高い)ので、当然のことながら海水を飲むと体内のナトリウム濃度が上昇します。ナトリウム濃度が上昇すると、体内のセンサーが働いて、脳から「のどが渇いた」という指令が出されます。そこで水を飲むことができれば問題ないのですが、体内のナトリウム濃度より濃い海水を飲んでしまうことで、
「のどが渇く」→「海水を飲む」→「ナトリウム濃度が上昇」→「さらにのどが渇く」→「さらに海水を飲む」→「さらにナトリウム濃度が上昇」⇒……
という負のスパイラルが働いて、本来は下げなければなけないナトリウム濃度が、海水を飲めば飲むほど上昇してしまうことになります。
ちなみに、塩の致死量は体重1kgあたり約3~3.5gとされています。体重60kgだと180~210gです。醤油の塩分濃度は濃い口で16~17%、薄口で17~18%。醤油1リットルには約160~180gの塩分が含まれており、かなり危険なことがわかります。
高ナトリウム血症とは
人間の身体は水が必要です
人間の体は水を必要としています。水があることで初めて臓器は正常に働きます。汗や尿にも塩分(ナトリウム)は含まれていますが、体液のナトリウム濃度よりも薄い(低い)ので、汗や尿で水分が体外へ出ると、水分不足により体内のナトリウム濃度は相対的に上昇します。
体内のナトリウム濃度の上昇を抑えるには、体内に水分を入れて薄めてあげないといけないのです。もしも、体液中のナトリウム濃度が高い状態が続くと、浸透圧により細胞内の水分が体液中に移動してしまうことになります。
身近な例として、漬物で考えてみましょう。漬物を作るときには塩漬けにします。野菜の細胞と塩水が触れると、野菜の細胞の膜が半透膜の役割をします。塩水の方が野菜に比べ濃度が高いので、野菜の中から水分が出て行ってしまい、野菜はしぼんでシワシワの脱水状態になります。
私たちの体で考えると、「野菜」が「私たちの細胞」、「塩水」が「体液」にあたります。私たちの細胞を覆っている体液の濃度が高いと、浸透圧により「細胞内の水分」が「細胞外の体液」へ出て行ってしまいます。そうなると私たちの細胞内はシワシワの脱水状態に陥る危険な状態になってしまうのです。
高ナトリウム血症の死亡率は成人で約50%
高ナトリウムにより細胞内脱水に陥ると、細胞の核の崩壊などを起こし細胞が壊れていきます。脳細胞が障害されると脳症をきたします。脳症になると、神経の異常、痙攣、昏睡が見られ、悪化すると死亡することもあります。「成人の高ナトリウム血症の死亡率は40~60%である」という非常に高い死亡率を示すデータもあります。高ナトリウム血症による死亡率が高い原因は、「脳浸透圧上昇の及ぼす影響」や「飲水不能な状態を通常もたらす持病の存在」などが考えられます。
特に高齢者は、水分摂取困難、口渇機構障害、腎濃縮能障害などがあることが多く、高ナトリウム血症になりやすいとされていますので、注意が必要です。
高ナトリウム血症の原因……塩分摂取ではなく脱水も原因に
汗をかいたら水をのみましょう
水分をほとんど摂取しない場合や、嘔吐、下痢、利尿薬の使用、過度の発汗が起こると、体液が失われ脱水症になり、相対的にナトリウム濃度が上昇するのです。
高ナトリウム血症の症状・治療法
先述の通り、高ナトリウムの状態になると、のどの渇きが生じます。深刻な高ナトリウム血症になると、脳の機能不全をきたし、錯乱、昏睡などの意識障害などを起こして、死亡するケースもあるので注意が必要です。高ナトリウム血症の治療法は、水分を補うことです。ごく軽症の場合を除いて、水と少量のナトリウムを入れて濃度を慎重に調整した補液を点滴します。
脱水になりやすい高齢者などでは予防的に水分を定期摂取するようにした方がいいでしょう。ただし、大量の発汗や下痢・嘔吐による高度な脱水の場合、急に水分だけを過剰に摂取すると、この例とは逆に「低ナトリウム血症(水中毒)」になるリスクもあるので、適度な塩分や糖分も必要です。