90年代に生まれたヒップホップ……西海岸で生まれたGファンク
90年代に入るとヒップホップの勢力はさらに増して、アメリカでは最も売れる音楽ジャンルになったりと、ヒップホップがメインストリームへと伸し上がっていきます。80年代半ば頃まで、NYを始め東海岸を中心に展開していましたが、それ以降は西海岸や南部、中西部などからも、各地方の個性を活かした独自のスタイルで、多くの アーティスト達がその才能を表すように。それぞれの地域ごとに、特徴や活躍したアーティスト達をMVと共に振り返ってみたいと思います。まずは西海岸。80年代中頃からアイスTやN.W.A.などのアーティストによって、“ギャングスタ・ラップ”が注目を集め始め、ギャングや人種差別、警察による虐待などをラップしたハードな内容は大きな社会問題をも引き起こしました。
N.W.A.の中心メンバーでもあったドクター・ドレーは問題のあったレーベルを離れ、91年に新たなパートナーとデス・ロウというレーベルを立ち上げます。そのレーベルからは自身を含め、スヌープ・ドギー・ドッグ(現在はスヌープ・ドッグ)、トゥーパックなど西海岸を代表する大物アーティスト達が生まれ、“Gファンク”というサブジャンルを確立して大きな変革期を築きました。
南部の“ダーティー・サウス”と中西部の“チョッパー”
アトランタやヒューストン、ニューオリンズなどの南部からはアウトキャストやマスターP、ジューヴィナイルなどによって “サザン・ラップ”や“ダーティー・サウス” と呼ばれるサブジャンルが誕生。それまであまりパッとしなかった南部も東、西海岸に劣らず、南部訛りのラップにアツく湿った地域ならではのギラギラ感満載スタイルで、その存在感を世に知らしめました。クリーブランドやシカゴなどの中西部からはツイスタやボーン・サグズン・ハーモニーなどのアーティスト達が“チョッパー”、“ミッドウエスト・ラップ”という早口でラップするスタイルを流行らせ、中西部のイメージを定着させます。
90年代に東海岸で復活、“イースト・コースト・ルネサンス”
ヒップホップ発祥の地、NYではナズ、ウータン・クラン、ジェイ・Zやノトーリアス・B.I.G.など数多くのアーティスト達がヒップホップ界を盛り上げます。一時は西海岸のGファンクに持っていかれた人気を東海岸に取り戻したその動きは、“イースト・コースト・ルネサンス”と呼ばれました。各地でスタイルが多種多様化していき、多くのアーティスト達がメジャーで活躍するようになったのが、90年代のヒップホップを取り巻く状況です。自主レーベルを立ち上げ、自分たちでビジネスをし、成功するアーティストも増えていきました。一方で、富、名声、権力を得て成功する同士に妬み、恨みを持ち、東海岸と西海岸のアーティスト達が対立するようになり、ヒップホップの歴史に大きな悲しい傷跡を残す大惨事を生むことに。それについてはまた改めて取り上げたいと思います。
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