絵本/日本人絵本作家

日本児童文学界のパイオニア・松谷みよ子の絵本と童話(3ページ目)

書店に並ぶ絵本の中には、わずかな期間で読み捨てられていく作品があるのも事実です。ところが、松谷みよ子さんの作品には半世紀以上も読み継がれているものがたくさんあります。今回はそんな松谷さんの代表作をご紹介します。

執筆者:大橋 悦子

厳しい現実から目をそむけずに社会問題を描いた作品

優しい母のまなざしと民話研究の成果を創作に活かしてきた松谷みよ子さんですが、同時に童話作品の中で、いつも幸せなことばかりが起こる訳ではないという世の中の現実を、包み隠さず書き続けた松谷さんの創作姿勢を見逃すことはできません。

その姿勢は、反戦へのメッセージを込めた絵本『まちんと』や幼年童話のタブーに触れたとされる「モモちゃんとアカネちゃんの本」シリーズなどに色濃く表れています。最後は、そんな厳しい現実から目をそむけず社会問題を描いた作品をご紹介します。

原爆の悲惨さと平和への願いを描く『まちんと』

絵本『まちんと』の表紙画像

幼い子にも容赦なく降りかかる戦争の悲劇に何度読んでも涙があふれます

タイトルの「まちんと」とは、どういう意味なのでしょうか? そのあまりに悲しい意味を私たちは忘れてはなりません。昭和20年8月6日。広島でその少女も原爆にあいました。傷ついた少女はトマトを口に入れてもらうと「まちんと まちんと(もうちょっと もうちょっとの意)」といって死んでいきました。幼い少女の命の火が消えゆくときのことば、それが「まちんと」でした。

悲しいお話です。でも、表紙カバーに書かれた作者の言葉を借りれば「「声高に戦争反対を叫ぶのではなく、静かに、こどもたちに平和の重さ、いのちの尊さを語りつぐ」絵本なのです。

このお話は、松谷さんが民話をもとめて広島を訪れた際に出会ったお話がもとになっているそうです。まるで民話に導かれるように出会った悲しいお話。松谷さんと民話との浅からぬ因縁を感じずにはいられません。

【書籍DATA】
松谷みよ子:作 司修:絵
価格:1296円
出版社:偕成社
推奨年齢:6歳くらいから
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きっとみんな読んでる?!「モモちゃん」の童話と絵本

絵本『おばけとモモちゃん』の表紙画像

おばけもたじたじの元気な少女・モモちゃんが主人公の楽しい絵本

写真の絵本『おばけとモモちゃん』は「ちいさいモモちゃんえほん」の中の1冊で、とっても楽しい作品です。主人公モモちゃんは、おばけを全く怖がらないどころか自分のおばけが欲しいのです。そこでモモちゃんは、マイおばけを手に入れるべく10円玉を握りしめおばけを買いに出かけます。そんなモモちゃんを怖がらせようと懸命になるおばけたちですが、なかなか上手くいきません。元気なモモちゃんにおばけたちもたじたじです。

「ちいさいモモちゃんえほん」シリーズでは、『おばけとモモちゃん』をはじめとして元気で無邪気なモモちゃんがいきいきと描かれていますが、もうひとりのモモちゃんが登場するオリジナルの童話シリーズ「モモちゃんとアカネちゃんの本」(全6巻)では、両親の離婚やそれに伴う家族の苦悩、父親の死なども描かれており、児童書としてはかなり重たい内容を含んだシリーズになっています。

けれども、ただ厳しい現実を描いただけの童話ではなく、猫のプーや靴下のタッタとタァタの活躍など幼年童話らしいファンタジーの世界も見せてくれる、松谷さんらしい作品です。

同じ名前のモモちゃんを主人公にしながら、全く趣の違う絵本と童話ですが、どちらもお子さんの年齢や成長に合わせてぜひ読んでいただきたい作品です。

【おばけとモモちゃん 書籍DATA】
松谷みよ子:作 武田美穂:絵
価格:1620円
出版社:講談社
推奨年齢:3歳くらいから
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