療養食・食事療法

近年、クローン病の食事療法に大きな変化が!?

クローン病の食事療法といえば、低脂肪・低残渣・低刺激が主流でした。そして栄養剤といえば腸の負担を減らすために成分栄養剤が主流でしたが、近年大きな変化が見られます。

一政 晶子

執筆者:一政 晶子

管理栄養士・米国登録栄養士(RD) / 栄養管理・療養食ガイド

クローン病とは

何らかの理由で消化器官(口から肛門)の一部に慢性的な炎症が起きる病気です。炎症は腸壁を超えることもあり、下痢、狭窄(腸が狭まった状態)、腸穿孔 (腸に穴が空いている状態)、吸収障害などがおき、腸の一部を取り除く手術が必要な事もあります。

クローン病の治療は、症状の緩和、炎症のコントロール、栄養不足の改善・最適な栄養管理などがメインになります。

クローン病の栄養管理

好物

好きなものを楽しんでも大丈夫?

つい最近まで、クローン病(緩解期)の食事療法といえば、低脂肪・低残渣・刺激物を控えるなどが慣習になっていましたが、研究などにより「標準的なクローン病の食事法は無い」ということになってきました。よって、著名な団体などによる、昔ながらのクローン病の食事療法は、ウェブサイト上などから削除・変更されている様子などもみられます。

繰り返しになりますが、クローン病食といえば、低残渣・低脂肪・刺激物を控えるなどの項目が入っていましたが、これらを食べても大丈夫な人も多い事が分かりました。ガイド自身も、患者さんによって食べれるものと食べれないものが全く違う……という個人的な印象は前から抱いていました。

食事

食事がストレスにならないように・・・

食事制限が厳しければ厳しいほど、カロリーやその他の栄養素が不足するリスクが増えます。制限が多ければ、食事への精神的なストレスも増えます。もともと栄養不足が問題になりがちなので「念のため避ける」という方法は勧められないという考えが広まってきています。よって、食べて大丈夫なら食べる。大丈夫でなければ食べないというアプローチになります。

栄養素不足は、食べ物の摂取不足によるものだけではなく、消化吸収不良や薬の副作用、病気による炎症でカロリーなどを含む代謝がアップすることなどにも影響されます。栄養素不足は、三大栄養素である炭水化物・たんぱく質・脂質だけにとどまらず、ビタミンや微量元素などにも及ぶようです。

緩解期(良好期)の食事

 「クローン病の標準的な食事療法はない」と言われても逆に困ってしまう人もいるかもしれません。基本的には、炎症を抑えて強い体を作るために、バランスのとれた健康的な食事や、適度に体を動かすことが大切だと考えられています。いくつか気になりそうな項目を見ていきましょう。

炎症

炎症を抑える食事が大切かも

【炎症を抑える食事】
慢性病と炎症の関連が長らく示唆されています。クローン病も炎症が大きく関わる病気です。炎症を意識した食事を試してみるのもよいかもしれません。炎症を抑える方法は以前のガイド記事をご覧ください。

【お腹の不調、消化・吸収不良】

消化吸収不良は、炎症の程度や、どの部分に問題があるかによって変わってきます。食べた物は胃を通って、小腸へ入り(上の方から、十二指腸、空腸、回腸)、そして大腸へと進んでいきます。一般的に小腸(特に回腸)に問題・炎症があったり、切除した場合に消化・吸収不良を起こしやすくなるようです。

回腸の大部分が炎症を起こしている場合や切除した場合は、脂溶性ビタミンやビタミンB12が不足しやすくなります。ビタミンB12は血液検査で不足しているかを調べることができます。回腸での問題は、特に腹痛、下痢、脂溶性ビタミンの吸収低下、体重低下につながることが多いようです。

この場合は、間食をプラスしたり、栄養剤を使ったり(成分栄養剤でなくても大丈夫というのが主流になってきました)、不足しやすい栄養素をサプリメントで補う必要もあるかもしれません。回腸に問題があっても、一概には低脂肪、低残渣食などが必要だとは言えないようです。

【狭窄:消化管が狭くなってしまう状態】
クローン病は、慢性的な炎症により腸の壁が狭くなったり、腸壁を傷つけたりすることがあります。そうなると、食べ物が腸管を通過しにくくなることがあります。この場合には、低繊維食や液体食が必要になることもあります。もしもこの狭窄が炎症ではなく、傷による場合は、手術が必要なこともあるようです。

【食物繊維】
再燃中や腸管が狭まっている場合は、食物繊維が腹痛を起こしたり、お腹が張ったり、下痢になることがあります。食物繊維といっても水溶性の食物繊維は、腸の中の水分を吸収し、下痢を改善する役に立つかもしれません。不溶性食物繊維は、水分を腸のなかに引き入れたり、食べた物の塊を速く移動させたりするので、お腹の不調につながる可能性はあります。

ほとんどの食べ物は水溶性・不溶性食物繊維の両方を含んでいます。よって加熱調理をしたり、皮・殻・種などを除くと食物繊維対策がしやすくなります。ただし、とうもろこし、種(苺の種など)、ナッツなど、特に消化されにくいものは不調を起こす人もいるようです。

【骨密度】
クローン病の人では骨粗鬆症のリスクが高くなります。これは、カルシウムの摂取不足、カルシウムの吸収不良、ビタミンD不足、身体活動の低下(骨への負荷が骨の強化につながります)、一部の薬との作用と関係すると考えられています。サプリメントの使用を考慮する必要があるかもしれません。

【除去食】
症状があるものだけを除去していくことが有効であるというのが主流になってきました。特定の食べ物を除去している場合は、その食べ物に含まれる栄養素を他の食物で補う必要があります。

【乳糖不耐症】
再燃中だけではなく、その他の時期でも乳糖不耐症が続く人がいるようです。乳糖を含む代表的な食品には牛乳があります。牛乳だと調子が悪くなる人でも、ヨーグルトやチーズは大丈夫な人が多いので試してみて下さい。

【不足しやすい鉄分】
不足しやすいことで知られているのは鉄分です。鉄分は不足すると元気がなくなったり、免疫が弱くなったり、疲れやすくなります。食事やサプリメントで調整してみましょう。サプリメントの量などは、かならずかかりつけの医師等に確認して下さい。

クローン病の再燃時(悪化している状態)

お腹

お腹の調子を安定させたい・・・。

下痢や腹痛、吐気や嘔吐、血便、便秘、食欲低下、疲労、体重低下などがみられることがあります。病院で治療を受けている場合が多いかと思われます。個人の症状に合わせて、担当の医師や栄養士による栄養療法が行われ、流動食、低残渣食、低脂肪食、経口栄養剤、静脈栄養などが処方されます。

クローン病で、腸が狭まって食べ物が通りにくくなっている場合や(狭窄)、低栄養がひどく、低栄養による合併症(感染症、極度の体力低下、褥瘡)がある場合や合併症が予測される場合は、食事と並行して、または単独で静脈栄養を行う事もあります。静脈栄養とは、胃腸などの消化器官を介さずに、直接血管へと栄養素を送り込む栄養療法です。腸管が閉じたり、穴が空いている場合などには手術が必要なこともあります。


参考文献・サイト
難病情報センター 
クローン病の栄養管理(英語)
Crohn's & Colitis Foundation of America


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