“自分らしさ”を追求した『レ・ミゼラブル』アンジョルラス役
『レ・ミゼラブル』2006年 写真提供:東宝演劇部
「出演が決まったら、僕より周りが驚いていましたね。ミュージカルは『エリザベート』(2000~2001年)にも出ていたけど、その時はトートダンサー役だったので、自分も歌う演目では『レ・ミゼラブル』が初めてでした。
稽古場に行くとみんなマスクしてたり、大声で発声練習をしていて、すべてが“未知との遭遇”でした。ミュージカルをやる方の一つの目標となるような作品で、とても愛されている作品なので、アンサンブルを含めて、みんながジャン・バルジャンの動きも歌詞も知ってるんですよね。複数のキャストがいるので、一人だけやることが違うと、例えば他の役が指差した時にそこにいなかったりするといけないので、違うことをするのが許されない作品でもある。そういう中に入って、決まった動きの中でどういう風に僕らしさを出したからいいか。そうだ、(他のアンジョルラスが)バリケードを10秒でのぼるところを、僕は3秒で上がろうとか、そういうところで自分らしさを表現することを考えてました」
――ディテールで恐縮ですが、最後の壮絶な仰向けポーズ、東山さんは片足で支えていらっしゃる姿がとてもきれいでした。よく考えると、片足であのポーズはきついですよね。
「あのポーズは、例えば(この役の先輩である)岡(幸二郎)さんは下に敷く旗の形までこだわって、美しく死んで行かれたと聞いていて、ここはそういうところなんだと思って考えました。他の皆さんがどうやっていたか分かりませんけど、僕は片足でしたね。バリケードの上り下りじゃないですけど、あそこでいかに死ぬかを考えていて、足も違う方向にまわしたほうがリアルかなとか、僕は体が柔らかかったので、上半身を90度垂れてみましたが、そうすると“照明が(顔に)当たらないので、もう少し起こしてもらえますか”と言われたり(笑)。
目を見開いたまま死んでいく人もいらっしゃったらしいんですよ。目をあけていることでアンジョルラスたち、学生の意志の強さを表現していると聞いて、それもアリだな、と一度稽古場でチャレンジしたんですけど…、僕はだめでしたね、あまりにもひどいドライアイで(笑)。
歌でははじめ、皆さんをひやひやさせることもあったけど、結果的に4,5年にわたって150回くらいアンジョルラスをやらせていただいたことは、本当に僕の力になりました。それまで、ダンス主体に活動していこうと思ってたけど、いやいや、ミュージカルって凄い世界だと思いました。今でもライブをやると『レ・ミゼラブル』の曲を歌ったりしますね。いろいろ引き出しを増やさせてもらい、自分の容量が大きくなったし、“こういうこともやったらいいんじゃないかな”と考えが広がって、今の舞台で生きていると思います」
『ちぬの誓い』撮影:吉原朱美
「僕、嫌いじゃないですよ。剣を持つとかっこいいなと思ったり。TSミュージカルファンデーションは『眠れぬ雪獅子』という作品で主演させていただいてから3年ぶりだったのですが、あれこそ体力消耗型で、とんでもなく大変でしたね(笑)。謝(珠栄)先生の舞台は主役が出ずっぱりだし、僕はダンス力が魅力だと思ってくださっているので、何かあると“そこ、飛んで”と言われたりして、玉野さんもそうですが、こちらの限界のちょっと上を狙ってきます(笑)。
『ちぬ』では謝先生が“あんたもしっかり芝居できるようにならんとあかんからな、鍛えてやるわ”と言ってくださって、最後に盲目になって絶叫するシーンがあるんですが、そこだけ抜き稽古で繰り返しやるんですよ。かっこよくと思ってたけど、目が見えなくなっても地を這ってでも生き抜く主人公ということで、“鼻水が出てもいい、はいつくばってでもやれ”と言われて、ぼろぼろになりながら演じていました」
『ちぬの誓い』撮影:吉原朱美