絵本

素敵な言葉、誰に伝える? 『だいすきっていいたくて』

大切な人たちに「大好きだよ」「大切に思っているよ」とちゃんと伝えていきたいし、相手の思いも感じたくなる絵本『だいすきっていいたくて』。ちょっと心が疲れてしまった大人も、心が軽く温かくなりそうです。

執筆者:千葉 美奈子

素敵な言葉を伝える相手を探すハムスターの子
『だいすきっていいたくて』

小さなハムスターのロラ。ママやパパ、友達に「すてきなことば」を伝えたいと思っているのですが、タイミングが合わなかったり、そんな雰囲気ではなかったりして、なかなか伝えることができません。伝えたいことばが伝えられず、次第にストレスがたまったロラはむくれてしまうのですが……。絵本『だいすきっていいたくて』は、子どもが必死で思いをことばに乗せ、そのことばが幸せな時間をもたらす様子を、温かなタッチで描きます。ようやくロラの口から「だいすき!」ということばが飛び出してくる場面が、小さな子にもとてもワクワクするようです。



やっぱり言わなければ伝わらない

一緒に暮らしている家族でも、行動のペースやその時々の心の状態は様々なので、伝えたいことを相手にタイミングよく伝えることができないこともたくさんありますよね。親子でもそう。小さな子は、思っていることをうまくことばで紡げなかったり、ことばが今にも飛び出しそうなのに大人がそれに気づかないことも。

もちろん、常に相手が何を言おうとしているのか注視していたら、お互い疲れてしまいます。1日を過ごす中では、たくさんやることがあるし、優先度も色々。この絵本に出てくるように、登校前に子どもがおもむろに話をし出したら「またあとで」と言ってしまうこともあるでしょう。でも、「またあとで」を子どもはしっかり覚えているのに、大人の方はすっかり忘れてしまうことも多いんですよね。

どんなにすてきなことばだって、やっぱり口から出なければ相手に伝わらない……。そして、家族だから、親しい間柄の人間関係だからと安心しきらず、少しだけ、相手の表情の向こうにある気持ちを想像できる余裕があると、心は一層近づくのかもしれませんね。

この絵本は決してお説教じみてはいません。「だいすき」という「すてきなことば」が口の中から飛び出した時の全身を使った喜びの様子、嬉しそうなママとパパの様子を見ていると、心がフワッと軽く温かくなります。そして、大切な人たちに「大好きだよ」「大切に思っているよ」とちゃんと伝えていきたいし、大切な人たちの中にある思いやことばを感じたいなという気持ちが自然にわいてくるような、そんな絵本です。


みんなが「だいすき」の気持ちを持てたなら

まだストーリーを完全に追えない3歳前後の子でも、ロラの口から「だいすきよ!」ということばが繰り返し飛び出してくる場面はとびきりワクワクするようです。ロラを指差して「だいすき!っていっているね」と喜ぶお子さんもいるでしょう。絵本を見ながら親子で「だいすき!」を繰り返し発していると、さらにワクワクした気持ちになりますよ。

幸せな気持ちをもたらしてくれる「だいすき」ということば。誰もが、大好きで大切にしたい存在を持ち、それをことばに出すことができたなら、笑顔や幸せが連鎖していきそうですね。子どもの「大好き」の気持ちは大事に育んであげたいし、「大好き」や「嬉しい」などの感情だけでなく、「つらい」「さびしい」気持ちも、しっかり受け止めていけたら。「すてきなことば」のキャッチボールをたくさん重ねることがその土台なのかなと、最後のページのロラの安心しきった寝顔を見ながら感じました。
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