地球上のさまざまな世界が広がる『せかいのひとびと』
表紙の裏には宇宙に浮かぶ青と緑の地球。タイトルページの前のページに現れるのは、手つかずの自然の中で裸で手をつないでたたずむ1組の男女。ここから何かが始まっていくイメージに包まれています。タイトルページには、世界中の様々な人たちの代表が一堂に会したように、異なる外見、格好の人たちがあふれ返っています。「すごいね、いろんな人がいるね！」と、このページでまず止まって見入ってしまうお子さんもいるかもしれませんね。絵本が投げかける最初の問いは、「いま地球にはどのぐらい人がいるか知っている？」。対する答えは「40おくにん」。この絵本の初版は1982年で、「せいれき2000年には60おくにんになるんだって」と書かれていますが、2015年現在、世界の人口は72億人を超えています。この絵本に子どものころ出会ったことがある方もいるでしょう。数字などの情報は古くても、人類にとって普遍的なことが、絵本『せかいのひとびと』には詰まっています。
共通する部分、異なる部分
体の形も、肌の色も、目の色や形、髪の色や質も様々。自分から見たら「おもしろい服だな」と思うものはその地域の人々にとっては普通で、逆に自分は「変わった格好をしているな」と思われているかも。おしゃれはどこに暮らす人々も好きそうだけれど、表現の仕方も様々です。誰だって美味しいものは大好きだけれど、ある地域でごちそうとされているものは、ある地域ではゲテモノ？同じ地域や国で同じ習慣のもとで暮らしていても、親切な人もいればそうじゃない人もいたり、賑やかなのが好きな人もいれば苦手な人もいたりするのは当然。世界中の多くの人間は遊ぶことが大好きだけど、遊びも様々。でも、一見異なるように見えて、共通部分が見つかる遊びも。異なる文化の中で暮らしていても、楽しいと思うことは共通なのかな？ そんな話でも、親子で、友達同士で盛り上がりそうです。
異なる人々皆に、必ず共通のことは？
世界中の異なる地域でどんなに違う文化、環境の下で暮らしていても、生命には必ず共通する部分があります。それは、生まれた時には小さいこと。そして、最後にはだれもが死ぬこと。生まれた時から憎しみや怒りの感情を持っている赤ちゃんはいないはず……。しかし、生まれた地域の歴史や育つ環境は、人々を様々な方向に分散させていきます。
違いを認めることの難しさ、知ることの可能性
人々がみなそれぞれ違うことは素晴らしいこと、とよく耳にする気がします。しかし、「違い」という言葉で思い描くものも、人によって様々で、曖昧なものかもしれません。長い歴史が抱える複雑な背景に、混乱が絶えない地域。信じる対象の違いを認めることがいかに難しいかは、歴史上何度となく繰り返されてきた宗教上の対立、争いが表しています。1つの国やコミュニティの中にも様々な考えや意見が存在しますが、多くのことは、“権力を持つほんの少しの人たち”によって動かされていきます。普段縁がない宗教も、世界の人口から見たらこんなにも多くの割合の人々がよりどころにして生活しているのだということなど、小学生や中学生以上の子にも新鮮な発見があるでしょう。そしてもっとシンプルに、色々な所に色々な人がいるんだということは、幼児期のお子さんも、絵本の中の豊富な素材から感じることができるでしょう。
整った町の中で穏やかに過ごしていると、十分な住まいや食べ物もなく健康を保つのが難しい暮らし、争いの恐怖に怯えながらも日常の暮らしを維持している人々のことを常に想像するのは簡単なことではありません。グローバルな視点が求められる中でも、誰もが違う国、地域に行くことができるわけではありません。そして、違いというものは、世界の異なる国や地域との間にだけあるものではなく、身の回りのいたるところに存在します。
全てを自分で見ることができなくても、他の人が見聞きして伝えてくれることや書物を通して、想像したり自分の視点で考えたり調べたりすることはできる……。異なるものへの興味を存分に引き出すことで、そんなことをこの絵本は伝えてくれます。
