マネジメント/マネジメント事例

大塚家具に赤福も!事業承継で親子紛争はなぜ起きる(2ページ目)

伊勢の老舗菓子店「赤福」、高級家具販売の名門「大塚家具」、企業経営の代替わりでトップのイスを血縁者に譲ったかと思えばまた戻したりと、身内ゆえの事業承継の難しさを感じさせる事象が相次いで起きています。実は、世に二代目、三代目への経営バトンタッチに悩む企業は多く、マネジメントの大きな課題でもあります。他人へのバトンタッチとは異なる身内への事業承継のあり方について、経験則を踏まえて解説します。

大関 暁夫

執筆者:大関 暁夫

組織マネジメントガイド

“偉大なる先代”は後継にとって最大のライバル

問題の根源を考えてみると、先代と後継ぎでは同じ経営者でも立場が全く違うという点が挙げられそうです。後継ぎは常に先代と比較されるという意識を前提として、社長のイスに座るのです。先代が創業者であるならなおのこと、創業者でなくとも旧来のやり方で社内を長年一枚岩にまとめてきた成功経営者であれば、後継者のプレッシャーややりにくさが想像を絶するレベルにあるのは想像に難くありません。このことは、多くの企業の二代目、三代目が実際に口にしているところでもあります。

彼ら後継の考え方は、先代が引いた線路の上を走る「従来路線」では自分の社長としての手腕を社内に認めさせられない、ならば新しい考え方に則った「独自路線」で勝負しようじゃないないか、ということになりがちです。赤福の多店舗展開、大塚家具の大衆化路線は、自社が置かれた環境の影響はあったにせよ、まさしく後継社長の先代との差別化願望があったのではないかと考えられるのです。

解説

他人への承継と親子間の承継。一番の違いはコミュニケーション?

このような後継のプレッシャーは、何も親子に限らず他人へのバトンタッチでも同じことと言えなくもありません。しかし、どういうわけか血縁間での承継ばかりがうまく流れないことが多いのです。理由はなぜか。後継が他人であるなら例え社長の座を譲ろうとも、あくまで上司と部下の関係は不変。社長になれども上司である先代が健在であるならおうかがいを立てながら、双方の考え方をすり合わせつつ落とし所を探っていくことになるわけです。

一方の親子は上司と部下ではなくどこまで行っても親と子であり、年齢が増すに従って次第に主従逆転し、子からすれば「老いては子に従え」との考えに陥りやすいのではないでしょうか。ここが他人への地位承継とは決定的に違うのです。一方の親からすれば、「いくつになっても親は親」「誰のおかげでここまで大きくなれたのか」となりがちで、最後は「子はいくつになろうとも親に従うべきもの」との考え譲らず相いれなくなるリスクをはらんでいると言えます。ガイドが見てきた親子間での事業承継を巡るイザコザは、ほとんどがこれでした。

親子間コミュニケーション不足が二代目、三代目の凋落を招く

ではどうすれば親子間の事業承継はうまくいくのでしょうか。究極の揉め事回避策は、先代が死ぬまでそのイスを譲らないことに尽きますが、それでは後継に引き継がれた後の会社の先行きが不安です。先代が生前に実権を譲るのならば、まずは会社ごと子供にくれてやったとあきらめて一切口出しせずに見守ることが肝要です。しかしその前提として、しっかりと次世代に会社運営を引き継がせるために忘れてはならない大切なことがあります。

事業承継前に時間をかけて十分な話し合いをして、お互いの言いたいこと、やりたいこと、守って欲しいこと、やって欲しくないことを明確に伝え合い、ビジョンを共有することです。こうすることで後継は先代をライバル視するのではなく、後継が先代と上手に向き合って企業を発展させていくと言う同じ土俵に立つことができるのです。親子間のコミュニケーション不足により失敗する二代目、三代目はたいてい、先代を越えようとして無意識のうちに違う道を選びたがるため、多くの場合、この話し合いが不足しているのではと感じます。

例えば電子部品製造のアルプス電気は、創業社長の片岡勝太郎氏が長男政隆氏への承継に際し取締役登用以降7年間のマネジメント修行期間を経て社長のイスを譲り、さらに以降14年間会長、社長の二頭体制の下で同社を世界的な企業にまで発展させてきました。親子間事業承継の成功例と言っていい思います。

先代と次代という経営者の親子関係ほど、親子ということをお互いに特別視しすぎるからなのでしょうか、マネージャー同士としてのコミュニケーションが不足がちになるようです。これまでもたくさんの企業経営者が肉親次世代への事業承継で悩む姿を見てきましたが、成功する事業承継に何より必要なことはただひとつ。親子関係を特別視せず、承継前からの日頃のマネジメント対話を密にすることに尽きると実感しています。
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