年金/公的年金制度の仕組み

損得を語るのはそもそも間違い?公的年金の本質とは

「現役時代に保険料を積み立てて、リタイア後に受け取るもの」。これが公的年金に対するイメージではないかと思います。しかし実際は、自分の保険料が自分のためでなく、今のリタイア世代の財源となっているのです。イメージとして「町内会の会費」がしっくりきます。公的年金も町内会も「困ったときにはお互い様」という考えが根底にあります。

和田 雅彦

執筆者:和田 雅彦

年金ガイド

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公的年金は自分の保険料が積み立てられている……わけではない!

「現役時代に保険料を納めて(積み立てて)リタイア後に受け取るもの」というのが、公的年金に対する一般的なイメージではないでしょうか?民間の生命保険にも、「個人年金保険」という商品が存在します。この個人年金保険は、保険料をコツコツ積み立てて、積み立てられたものをリタイア後に年金として受け取るという仕組みです。公的年金もそんなイメージを持たれるかもしれません。

しかし、実際は公的年金と個人年金保険とは大きな違いがあります。個人年金は、自分の保険料を自分のリタイア後の年金の財源とする「積立方式」であるのに対し、公的年金は現役時代に支払った保険料は自分のためでなく、その時代の年金に使われる「賦課(ふか)方式」となっています。

ちょうどイメージとしてしっくりくるのは、町内会の会費徴収システムです。最近は少なくなってきているのかもしれませんが、町内に住んでいる人から会費を集めて、町内の誰かが亡くなったときに香典やお供えを渡すような仕組みですね。
 

公的年金も町内会も「相互扶助」の精神

公的年金(社会保障)は「相互扶助」という原則があります。「困ったときにお互いに助け合いましょう」ということですね。町内で会費を集めて困った人が出てきたときにそこから支払う、この会費にあたるものが国民年金や厚生年金の保険料ということになります。さて、この「困ったとき」とは何なのか?ということですが、公的年金は3つの「困ったとき」に支給されます。具体的には、
 
  • 年を取ったとき:老齢年金
  • 一定の障害の状態になったとき:障害年金
  • 一家の大黒柱に万が一のことがあったとき:遺族年金

ということになります。この3つの状態になり、働けなくなって収入がなくなってしまうことが「困ったとき」で、「困ったとき」になった人のために、日本国民全体で保険料を支払うことにしているのが公的年金制度ということになります。
 

困ったときがこなければ何も受け取れなくて当然?

毎月町内会費を払っていても、「困ったとき」が来なければ、通常何も受け取れないことになると思いますが、これは公的年金でも同じことが言えます。先ほど書いた「困ったとき」にならない(障害の状態になることなく、年を取る前に亡くなり、年金を受け取れる遺族がいないような場合)と、年金は支給されません。いわゆる「掛け捨て」となってしまうわけです。

町内会の会費が掛け捨てなのはわかるけど、公的年金が掛け捨てなのはちょっとゆるせない気持ちになりますね。支払う額も違うし、払い込む期間も長いので(ただ、実際はかなりの割合で年を取るという「困ったとき」になるので、掛け捨てになる可能性は少ないのも事実です)。ねんきん定期便を見ると、保険料をいくら払って、いくら年金が受け取れるという「収支」が表示されていますが、こうして考えると、年金を「損」「得」で論じるのはナンセンスなようにも感じます。
 

町内会の会計も公的年金の財政も今や「火の車」

仮に町内会の会費の支払が60歳までで、リタイアした人からは会費を取らないシステムだとすると、お年寄りばかりで、若い人が少ない町内会の会計は火の車になってしまいますね。場合によっては、会費の引上げをするか、もう少し長く会費を払ってもらうようにしなければならないかもしれません。香典やお供えの額を減らすなんてこともあるでしょう。

日本の公的年金もまさにその状態と言えます。実際、我々が支払う保険料は毎年値上げされています。少子高齢化により、保険料を負担し支える人数が減り、年金の支給を受ける人数が増え、支給を受ける期間も長くなっていますからね。また、町内会でも、会費を払うのを拒否する人がいるかもしれません。最近は都会を中心として町内会という横のつながりが希薄になり、そういう人が増えているとも言われています。国民年金でも未納が問題となっていますが、根っこは同じ理屈なのかもしれませんね。

いずれにしても、町内会の会費システムも公的年金も古き良き時代の仕組みと言えそうです。公的年金も「積立方式」にすべきと考える人もいるようですが、国は当面公的年金について、この仕組みを維持しようとしています。それには「若い世代がお年寄りの面倒を看る」という仕組みを、「若い世代に加えて生活に余裕があるお年寄り」にも支える側に加わってもらうなど、支える人を増やして一人ひとりの負担を軽減する仕組み作りが必須になるのでしょう。

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