ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

Creators Vol.4 『∞/ユイット』演出家、小林香(2ページ目)

2010年の『DRAMATICA/ROMANTICA』以来、華も実もあるキャスティングと、ジャンルに囚われないユニークな舞台で人気を集めるシリーズ「SHOW-ism」。その第8弾『∞/ユイット』が、間もなく開幕します。シリーズの生みの親で、『カルメン』『ロコへのバラード』といったミュージカルや「StarS」等のコンサートでも目覚ましい活躍を見せている演出家が小林香さん。創作の意図と原点を伺いました。*観劇レポートを追記しました!*

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド


「大人が楽しめるショー」を意識した『∞/ユイット』

『∞/ユイット』

『∞/ユイット』

――では最新作『∞/ユイット』についてうかがいます。『ユイット』はフランス語の「8」であるわけですが、もちろんSHOW-ism第八弾という以外の意味も含まれているわけですよね。

「かなり多面的にこのタイトルを考えました。まずは無限という意味。そして舞台はパリのとあるホテルで、そこでは8号室だけがずっと空いている。そしてこのホテルでは午後8時に劇中劇が繰り広げられる…といった具合で、作品のあちこちに“8”がちりばめられています。もう一つ、重要な要素もありますが、それはご覧になってからのお楽しみです」

――SHOW-ismでは毎回、出演者それぞれの個性がどう発揮されるかが大きな見どころです。今回はどんな方向性でしょうか?

「井上芳雄さんはこれまでいろんな役をおやりになっていますが、今回は色気のある大人の男の役を書きました。

蘭寿とむさんは宝塚退団後最初の作品もご一緒しましたが、前回は“退団後まもない元・男役の方”ということでいろいろ考える部分もありましたが、二作目の今回は元・男役ということを意識せず、一人の女優さんとして役を作りました。とむさんはショースターでもいらっしゃるので、歌も踊りも芝居も、そしてショーに大事なビジュアル要素も含めて、光らせることができる役に、と思いましたし、稽古をみていると本当に輝いていらっしゃると思います。

大貫勇輔君はご存知の通り屈指のダンサーですが、今回、ハモるということをやってもらいたいと思っています。彼にとって、私は彼に初めてソロをふった演出家であるらしく、そのSHOW-ismの第二弾『Underground Parade』から4年ほどの間で次々と大きな経験をしてまた登場して下さったので、今回はソロもダンスももちろんありますが、みんなとハモるということにチャレンジしていただいています。

坂元健児さんについては、昨年の怪我を心配されているかたもいらっしゃるかもしれませんが、足はほとんど治っていらっしゃいます。ですが私が逆に、車椅子の役にしていて、車椅子をくるくる、自由自在に動かして踊っていただき、最後にある変化を遂げるというオチをつけました。

フィリップ・エマールさんは、(井上)芳雄さんの紹介がきっかけで出演が決まりました。彼が飲み屋で一緒になって喋っていたら、シルク・ドゥ・ソレイユの『ZED』でクラウンをやっていた方で、ここ数年日本でフリーで活動されているということで、“香さん、会ってみてはどう?”と紹介されたんです。そういう、芳雄君のアンテナがピッと鳴った出会いがあればそういうものも取り入れていこうと、それもオリジナル作品の良さですよね。

ジェニファーさんは、他の二人の女性が大人っぽいので、“現代っ子”担当になっています。音楽も他の二人よりビートの効いたものを踊ったり歌ったりしてもらって、楽しいことをもっと楽しくしてもらっています

彩吹真央さんは、実際そういうお人柄ということもあってあたたかみのある役を演じることが多いのですが、今回ははじめちょっと得体の良く分からない感じの人物で、それが途中のレビューシーンで恋に身をやつす激しいシーンがあり、また厳かに戻るという、これまで彩吹さんがあまりやっていないタイプの役になってると思います」

――ネタバレになってしまうのでそのものずばりは言いにくいのですが、本作のテーマは、小林さんが常に抱いているものなのでしょうか。
『DRAMATICA/ROMANTICA』写真提供:東宝演劇部

『DRAMATICA/ROMANTICA』写真提供:東宝演劇部

「そうですね。私は小学生時代、学校がつまらなくて月曜の朝がとても嫌だったんですが、本を読むのが大好きで、本の中の登場人物たちが自分の中で生き生きと動いていたんですね。その彼らが頑張っているから私も学校に行かなくちゃと思って、物語によって日常生活がおし進められた経験があるんです。

それと同様に、劇場で見た登場人物たちがずっと心の中に生きていて、それが明日への活力になる、ということもありますよね。そういう“力”を、今回の舞台が与えられたらと思って、今回の作品を書きました。いつでも劇場に来て下されば、あなたのそばにいていつも美しい時間をシェアできますよ、ということで、登場人物たちにはある共通の設定がされています」

――ご覧になったお客さんたちに、どんなものを持って帰って欲しいと思っていらっしゃいますか?

「大人の方がたくさん観て下さるといいなと思って作り始めました。今、若い人向けのものってたくさんあると思うんですけど、私が初めて帝劇に行った十数年前は帝劇もまだ半分、座長芝居をやっていまして、大人のお客様、年配のお客様が劇場でわいわいお弁当を食べ、芝居を楽しみ、という光景があったんですね。その後時代が移り変わり、今はすっかりミュージカルの時代になっていると思いますが、大人のお客様が楽しめるものがもっとあったらいいのにと思って、『ピトレスク』の時にも、今回も意識しています。

大人の方がエンジョイできるように、ワインが飲み放題になっていたり、シアタークリエでは初めて特設エリアを作って客席と舞台の距離を近くしたりと趣向を凝らしています。それはパリのナイトショーから学んだことなんですけれど、人生でいろんなことを経験なさっている方々だからこそ、純粋に心根の美しいもの、そしてテクニック的にも上質なものを観ていただいて、次の一週間を頑張っていただけるものになったらいいなあ、とシンプルに思っています。

自分は、すごくいいものを観て感動した記憶がずっと残っているので、私もまたそういう風に人の役にたてたら、と思うんですね。目の肥えた方々が対象だし、今回はショーなのでそれだけ掘り下げた内容にするのはすごく難しいことなんですが、お客様に嘘をつかずに、技術的にも良いものを舞台の上に出そうと、一生懸命稽古しているところです」

*次ページでは演出家デビューするまでの小林さんの修業話をうかがいます。予想外の仕事に出会った小林さん、どのように取り組み、そして今に至るのでしょうか?
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