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安い野菜・食材は危険? 値段と「食品リスク」の考え方

【管理栄養士が解説】昔から「安かろう悪かろう」という言葉がありますが、安いものは粗悪なものと思われがちです。しかし、安い野菜や冷凍食品、国産に比べて安価な中国産うなぎなどの輸入食品を始め、廉価な食品は庶民の味方です。食品の安全性はどう考えるべきか。買う・買わないの見極め方は? 今回は、家計と食品の質を天秤にかけた場合の「食品リスク」の考え方を解説します。

平井 千里

執筆者:平井 千里

管理栄養士 / 実践栄養ガイド

安すぎる食材は怖い? 高い食材なら安心?

スーパーで買い物する女性

安く買えると嬉しい毎日の食材。食品の安全性と価格の関係はどう考えればよいでしょうか?

昔から「安かろう悪かろう」などと、安いものは粗悪なものと相場が決まっているように言われます。しかし、安い野菜や冷凍食品、高級な国産品では難しい安さを実現している中国産うなぎなど、廉価な食品、輸入食品は庶民の味方です。高価なものの方がよいかもしれないけれど、毎日の食費や家計を考えると、安いものを選びたい……。

食品の安全性とおさいふ事情を天秤にかけなければならないとき、どう考えて食品を選ぶべきなのでしょうか。
 

中国産の食品は危険? 食の安全性の違反状況は

厚生労働省の「平成30年度輸入食品監視統計(令和元年8月発行)」によると、
「違反状況をみると、中華人民共和国の171 件(22.9%:総違反件数に対する割合)が最も多く、次いでアメリカ合衆国の133 件(17.1%)、タイ王国53 件(6.8%)、ベトナム社会主義共和国52 件(6.7%)、フランス共和国32 件(4.1%)、イタリア共和国29 件(3.7%)、の順であった。」
とありますから、違反状況の総数の中では中国は違反件数が多いのは間違いありません。

しかし、「中国産の食品を食べたら命にかかわりますか?」については、「No」であると回答します。

今回、前述の統計から、食品の輸入件数に対する違反件数の国別の割合を計算してみました。すると、中国0.022%アメリカ0.059%タイ0.032%ベトナム0.059%フランス0.015%イタリア0.024%という結果になりました。

ここで、中国に特化して考えてみます。0.022%といえば、約4500件に1件。これを多いとみるか少ないと見るか、ここが分かれ目になるでしょう。私個人としては「このくらいの割合は人間だもの」と考えていいと思っています。いくら機械化がすすんだといっても、細かい作業のすべてを機械化することはできません。人の手に頼る作業が皆無になったわけではないのです。自らを振り返ってみても分かるように、完璧な人間などいません。どんなに手馴れた人でもミスは起こります。

また、人件費の安い諸外国の労働力に頼るというのも、悪いことばかりではありません。労働者たちは、その仕事があるから食べていけるという側面もあります。賃金は日本と比べて安くても物価の兼ね合いで、生活には困らない場合もあるでしょう。

そう考えると、食事は毎日のことです。たまにご褒美として買う靴や洋服、映画のチケットと違って、毎日贅沢できるわけでもありません。こうした我々の生活を鑑みても、輸入食材を使うメリットはデメリットを大きく上回ると思います。
 

安い冷凍食品は体に悪い? 栄養面のデメリットや健康リスクはないのか

冷凍食品は体に悪いのか、という質問に対しても、答えは「No」です。

冷凍食品が安い理由は、小売業者の思惑が1つ。冷凍食品を「目玉商品」として特売にかけ、お客様を呼び込みたいのです。なぜなら、冷凍食品は冷凍庫で保存ができるので買いだめが可能です。そうなると、安いときに買っておきたいと考えるのが消費者心理です。

実は、冷凍食品を目当てに来店したとしても、他のものも一緒に購入していくお客様がほとんど。仮に冷凍食品だけでは赤字であったとしても、冷凍食品と一緒に通常の値段のものを購入してもらうことで小売業者は黒字を出すことができます。

一方で、メーカー側も新商品などは値引きをして味見をしてもらうことで、当該商品のリピート客を欲しているときもあります。ここで小売業者とメーカー側の思惑が合致して、冷凍食品の特売が行われることがあります。

もう1つの理由として、生産者側のコストダウンが可能なことがあげられます。土地と人件費が安価な場所(中国、タイ、ベトナムなど)で旬の時期に大量に生産し、安い人件費で一気に加工することができるため、冷凍野菜や冷凍果物などは市場に安く出回ります。

ここでよく考えてほしいのは冷凍野菜や冷凍果実を「旬の時期に大量に生産し」というところです。旬の野菜や果物は時期はずれのハウス栽培のものよりも栄養価が高いのです。そのため、冷凍食品を使えば、栄養価の高い旬の野菜を高い栄養価を保ったまま季節はずれにも食べることができるようになる、ともいえます。

野菜や果物は旬の時期に旬のものを食べるのが一番美味しいのは言うまでもありません。夏には体を冷やし、冬に体を温めるのは旬の野菜です。とはいえ、旬の野菜ばかりでは目が変わらず飽きてしまいます。一人暮らしや少人数の家庭でも使う分だけを小出しにして使うことができるのもメリットのひとつ。いろいろな食材を楽しむ知恵として、冷凍食品をうまく利用するのも悪くない選択だといえます。

次に、野菜・果物などの残留農薬や、食品添加物のリスクについて考えていきます。
 

残留農薬や添加物はどう考えればいいのでしょうか?

消費者にとって一番の心配事は残留農薬や添加物でしょうか。

残留農薬は、農薬や育てる過程で与えたお薬などが出荷後の食材に残ってしまったものです。むろん、残らないに越したことはありませんが、食材はもともと「生き物」です。病気になることもありますし、病気にならないように予防することも必要です。残留しないような農薬を使い、出荷時には限りなく残らないように配慮していても、どうしても残ってしまうことがあるのです。

添加物は食品を加工する際に食味や色合いを整えたり、保存性を高めたりするために使用します。しばらく前に、天然着色料の「コチニール色素」は昆虫から採取された色素なのに、それを消費者は知らされていなかった、といったニュースもありました。また、それ以前から、合成着色料は体に悪いといわれており、添加物も食品には入っていないほうがいいものと考えられてきた歴史があります。

しかし、残留農薬や添加物によって、農業や酪農などの「生産性」が上がり、採れた食材を長期保存できるようになったからこそ、人々は餓えから逃れることができるようになりました。農薬を使うことや添加物を使うことは、人間が食品を安定して手に入れるためにどうしても必要なことだったのです。

もちろん、有毒なものを「生産性のため」とはいえ、許可しているのは許せないと考える人もいると思います。この点については、厚生労働省や消費者庁で、どの成分なら使ってもよいのか、どのくらいの量までであれば一生食べ続けても命に別状はないのか等の検討を行い、厳しく管理しています。また、市販されている食材も、さまざまな店舗におかれた食材から抜き打ち検査を行って基準を超えていないか厳しく管理を行っています。
 

日本のスーパーで手に入る食材は「概ね安全」

以上のように、日本のスーパーや商店街等で手に入る食材は概ね安全といえます。ただ、概ね安全といっても、時々ニュースに上がるように「食品事故」はいつ起こるとも限りません。どんなに注意を払っても「食品事故」は一定の割合で起こります。輸入食材だから事故が起こる、冷凍食品が安いから事故が起こるのではありません。食の安全にこだわっている国内産の食材であっても、人の手がかかわっている以上、100%安全であるとは言い切れません。国産品でもミスは起こりえます。

そんな現状を踏まえて、高くても国産のものがいいというのもひとつの考え方ですし、安価な輸入食材を使うというのもまたひとつの考え方です。

日本の食材は厳密な管理を受けています。基本的にはどれを選んでも安全と考えていいでしょう。あとは、それぞれのおさいふ事情や考え方に応じて、食材を選んでいけばよいと思います。
 

食品リスクを上手に考えて、体にもお財布にも優しい生活を

リスクには「実行するリスク」と「実行しないリスク」の2つがあります。やる・やらないのように、白黒はっきりできれば気持ちもいいのでしょうが、日常生活は白黒はっきりするものばかりではありません。また、誰しもが「白」のみを目指すといったことも現実的ではありません。

「時間もお金もあるから輸入食材も冷凍食品も使わない」という人がいれば、「時間もお金もないので輸入食材も冷凍食材も使う」という人がいてもいいのです。給料日前と給料日後で考え方を変えるというのも「アリ」でしょう。考え方はその家庭ごとに(または個人ごとに)違っていいのです。

ぜひ、自分にとって有益な技術を上手に取り入れながら、からだにも心にもそしておさいふにも優しい生活を送りましょう。
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