自然な陣痛で出産できるのが理想ですが、妊娠・分娩の経過によっては、人工的な陣痛誘発・陣痛促進が必要となる場合もあります。以前は、医師がそれぞれの経験に基づく方法で行っていましたが、2006年に「子宮収縮薬による陣痛誘発・陣痛促進」についてガイドラインが定められ、その後の改訂を経て、現在では、より安全に留意した手順で行われています。
陣痛促進剤・陣痛誘発剤の種類・安全性やリスク・影響・分娩時間

陣痛促進剤・陣痛誘発剤の種類・安全性やリスク・影響・分娩時間

この子宮収縮薬(陣痛促進剤・陣痛誘発剤)の種類・安全性やリスク・影響について、使用に関する基本的事項、使用する手順について解説します。
   

陣痛誘発・陣痛促進とは?

■陣痛誘発
何らかの必要性があって、自然陣痛が始まる前に人工的に陣痛を誘発する方法。子宮頸管の熟化(分娩準備状態)の程度により、誘発の成功・不成功が左右され、予定通りには行かない場合もあります。

子宮頚管の熟化については、内診で子宮口の開大度、位置、硬さなどから子宮頚管の熟化を評価しますが、大まかには熟化が良好、中程度、不良の3段階になります。
  • 熟化良好:子宮口の開大が3センチ以上で柔らかく、陣痛があれば分娩可能
  • 熟化中程度:子宮口の開大が1~2センチで中程度の硬さ、陣痛があれば可能性はあり
  • 熟化不良:子宮口は未開大で硬く、陣痛誘発が成功する可能性は低い。熟化不良の場合は子宮収縮薬は使わない方針の施設もあります
子宮収縮薬を使用する際には、医師から子宮口開大が何センチか、熟化の程度が良好か不良か、などについての説明があります。もし、説明がなければ質問して確認しましょう。

■陣痛促進
分娩が開始した後、途中で陣痛が微弱となり、分娩進行に問題がある場合に陣痛の増強を図る方法。疲労回復のための栄養点滴や一時的な休養などに加え、医学的手段として子宮収縮薬が使われます。
 

子宮収縮薬:陣痛促進剤・陣痛誘発剤の種類

陣痛を起こすための子宮収縮薬は、オキシトシン、プロスタグランディンF2α、プロスタグランディンE2の3種類です。薬剤の特徴をふまえて医学的な判断で使い分けます。単独で使用し、同時に併用することは禁じられています。
  • オキシトシン(商品名:アトニン-O、オキシトシン注射液)
    分娩進行と共に母体内で分泌される子宮収縮物質で、それを化学合成した点滴用薬剤。自然陣痛に近い子宮収縮が得られますが、薬剤の効果に個人差や妊娠週数による差があり、子宮頸管が熟化不良な場合には使用できません。陣痛促進では、すでに子宮口が途中まで開大しているので、このオキシトシンを選択します。
  • プロスタグランディンF2α(商品名:プロスタルモンF注射液、プロスモン注)
    お産が近づくにつれて子宮内組織の局所で濃度が増加する生理活性物質で、それを化学合成した点滴用薬剤。自然陣痛に比べ収縮周期が不明瞭ですが、オキシトシンよりも薬剤効果の個人差や妊娠週数による差が少なく、これまでは子宮頸管の熟化が不十分な場合に使われてきました。ただし、最近では熟化不良の場合には、分娩誘発を行わない方針の施設も増えています。
  • プロスタグランディンE2(商品名:プロスタグランジンE2錠)
    胎児を包む羊膜で主に作られ、分娩が始まると羊水中で濃度が増加する生理活性物質で、それを化学合成した経口薬剤。子宮頸管を熟化させる作用があるので、頸管の熟化が不十分な場合に、点滴に先だって使われることがあります。内服薬なので手軽な印象がありますが、薬の効果には個人差があり、ほとんど効果がない場合から、薬を服用した後、急に陣痛が強くなる場合などがあり、慎重に使用します。
 

子宮収縮薬:陣痛促進剤・陣痛誘発剤は使用前に必要性やリスクの確認を

まず、子宮収縮薬を使用する必要性、薬の種類と使い方、薬の危険性とその対応について、あらかじめ医師から説明を受け、確認することが必要です。

【子宮収縮薬の必要性】
  • 過期妊娠:胎盤機能の低下、羊水の減少などにより、子宮内環境が悪化する可能性
  • 前期破水:陣痛が始まる前に破水して長時間が経つと、胎児が感染を起こす可能性
  • 陣痛微弱:陣痛が微弱で分娩が進行せず、長時間になると母児の状態が悪化する可能性
  • その他:胎児や母体に異常・疾患があって、妊娠の継続が悪影響を起こす可能性
 

使用する子宮収縮薬と使い方 点滴薬/経口薬

  • 点滴薬(オキシトシン、プロスタグランディンF2α)
    必ず精密持続点滴装置を用いて微量から始め、母児の状態をチェックしながら有効な陣痛となるまで、30分ごとに増量します。
  • 経口薬(プロスタグランディンE2)
    母児の状態をチェックしながら、1時間毎に1錠ずつ、1日最大6回まで服用します。
 

陣痛促進剤・陣痛誘発剤の胎児や母体へのリスクと対応

薬に対する反応には個人差がありますので、まれに陣痛が強くなりすぎて、子宮破裂や産道裂傷、胎児の低酸素症などが起こる危険性があります。陣痛や胎児の状態を把握しながら、薬剤の投与量には細心の注意を払い、必要な場合には緊急帝王切開を行います。
 

陣痛促進・陣痛誘発の実際の流れ

  1. 必ず入院管理の上、子宮収縮薬が使用できる状態かどうか調べます
  2. 子宮収縮薬開始前から分娩監視装置を装着し、薬の使用中は連続して陣痛、胎児心拍数を記録します
  3. 点滴薬を増量する時、経口薬を服用する時には、母体の血圧、脈拍を記録します
  4. 内診は、分娩の進行具合によって適宜行います
  5. 子宮頸管が熟化不良の場合、機械的頸管熟化処置(バルーン・ラミナリアなど)を行うかどうかの方針は施設によってかなり異なります。もし行う場合には、どんな処置なのかを確認しましょう
  

陣痛誘発・陣痛促進を促す処置、手技

陣痛を誘発・促進する処置には、卵膜用手剥離、バルーンメトロ、子宮口拡張材(ラミナリアなど)、人工破膜、浣腸、乳頭刺激、入浴などがあります。

子宮口が硬い時、陣痛が微弱な時に行われますが、効果には個人差があり、薬による陣痛誘発・促進と同様、目的、内容、リスクについて、十分な説明と、本人・家族の同意が必要です。
 
  • 卵膜用手剥離
卵膜用手剥離

卵膜用手剥離 内診の指を子宮口の奥に入れ、子宮壁と張り付いている卵膜を全周、剥離させます。出血、破水、感染を誘発する可能性があるので、あらかじめ説明と同意が必要です。妊婦さんが「例の子宮口グリグリをしてください」と希望することもあります。

外来で内診の際に行いますが、痛み、出血を伴います。破水、感染を誘発する可能性があり、産婦人科学会ガイドラインでは、積極的には推奨していません。
開業助産師は、陣痛誘発薬が使えないので、過期出産を避けるために必要な手技ですが、処置を行った医師や助産師が、分娩まで責任を持つ必要があります。出産件数が多い施設で、処置を多用する医師がいると、夜間に、出血や破水で来院する妊婦が増えて大変です。
  • バルーンメトロ
子宮口の内側に水風船を入れて、子宮口を拡張する処置です。計画分娩が多かった時代、陣痛誘発剤を使用する前に行われました。臍帯下垂・脱出、子宮口裂傷、前期破水、感染のリスクがあり、徐々に減っています。産婦人科医会によると、2017年に調査した総分娩数の6.6%で行われました。通常の陣痛誘発よりも慎重な管理が必要です。
 
  • 子宮口拡張材(ラミナリア・ダイラパン)
子宮口が硬い場合に、棒状の拡張材を挿入して、機械的に広げる手技。前期破水、感染のリスクがあり、陣痛誘発が目的での使用は減っています。
 
  • 人工破膜
子宮口が全開する前に人工的に破水させ、分娩進行を促すことを人工破膜といいます。積極的分娩管理(入院したら24時間以内に分娩を終わらせる)では、ほとんど必須な処置です。日本の分娩を見学に来たアメリカの産科医が、陣痛発来した子宮口3cmの妊婦に人工破膜をしないのは「なぜだ?」と言っていました。日本では、臍帯脱出や感染症のリスクを考慮して、子宮口が全開するまで行わない施設の方が多いと思います。
 
  • 浣腸
以前、分娩で入院すると、分娩進行を促す目的で、ほぼ全員に浣腸が行われていましたが、浣腸の後、息んでトイレで分娩になったり、子宮が持続的に収縮して、緊急帝王切開になることもありました。現在は、本人が便秘解消で希望しない限り、行われることはありません。
 
  • 入浴
微弱陣痛で分娩が進行しないときに、入浴することで分娩の進行を促すことができます。陣痛を和らげる効果もありますが、日本では医療事故や障害が報告され、普及していません。日本のお風呂の湯温が高く、長時間の入浴で汗をかくと、脱水状態になり危険です。湯温は低めにし、十分な水分補給と、頻回の胎児チェックが必要です。
 
  • 乳頭刺激
分娩中、乳頭を刺激すると子宮収縮は強くなります。ただし、乳頭刺激の不快感には個人差があり、本人自身で刺激するか、スタッフが行うかなど、十分に配慮が必要です。乳頭を刺激した後に、児死亡となった報告があり、頻回の胎児チェックが必要です。
 
いずれも処置も、絶対安全という方法はありません。微弱陣痛で分娩の進行が遅い時には、一旦、休憩、睡眠をとることが、良い結果をもたらすこともあります。

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