孤独を感じる体験をもとにした『あ、そ、ぼ』
絵本作家マイケル・フォアマン氏の絵と息子のジャックの文による、親子のコラボ作品『あ、そ、ぼ』。ジャックが10歳の時のいじめの体験をもとに書いた詩がベースになっているそうです。絵本からこんなメッセージが聞こえるようです。あなたの近くにひとりぼっちの子はいませんか? 普段気にとめていなかったら、ちょっと周りを見回してみて。思い切って声をかけてみたら、その子も自分も他の友達みんなも、きっと、もっと楽しくなれるはず……。
今まで気づかなかった他人の気持ちに、子どもたちがふと思いを巡らせるきっかけになってくれたら。もちろん、子どもだけでなく大人にも当てはまることかもしれません。
みんなの仲間に入れた犬、入れない男の子
ひとりぼっちの野良犬は、とても寂しそう。家の中で飼い主に抱かれている猫が、まぶしく見えるようです。そんなとき、大勢で仲良くボール遊びをする子どもたちの姿が目に入りました。反射的にみんなに駆け寄る犬。「ぼくも いれて!」。みんなに混じって元気いっぱいの楽しそうな犬の姿にホッとします。でも、あれ? 先ほどまでの犬のような、寂しげな男の子が、みんなの遊ぶ様子を見つめています。「つまんないな……つまんないな……」。そのとき、ふとしたきっかけで男の子の方に走ってきた犬が、男の子と他の子どもたちをつなぐ役割をします。男の子は自分を仲間はずれだと思っていたけれど、どうやらみんなは男の子の存在を特に気に留めていなかっただけのようです。気づかないということも、時に気づかないふりをすることも、寂しさを感じている人にとっては残酷なもの。でもこの絵本では、犬がみんなの気持ちを男の子の方に向かせる大きな役割を果たし、男の子は少し勇気が出てきたようです。
一言がだれかの人生を変えることも
「自分からみんなの中に入る努力」とか「勇気を出して声をかける」って、文字にすることは簡単ですが、それを簡単にできる人や場合だけではありません。そして、子どもだけでなく大人になっても、そんな気持ちを経験することは多かれ少なかれあるものです。「一緒にあそぼ!」に象徴されるような、孤立を感じてしまっている人を仲間として受け入れてくれる一言は、だれかの人生のひとコマや方向を大きく変えることがあります。そして、つらい時、元気を失っている時に、無理をして大勢の中に入ろうとしたり、新しい世界になじもうとしたりしなくても大丈夫。でも、この犬がもたらしたようなちいさなきっかけがあったら一歩踏み出してみようと、最後のページで笑顔になれた男の子が伝えてくれているように感じました。