充電期間に“音楽”という道標に出会い、再デビュー
ライブでの加藤さん。
「当時高校3年だったのですが、正直、“芸能界でこういうことをしたい”というものがあったわけではなかったんです。そのころコンテストが流行っていて、友達に勧められたこともあって、半ば興味本位で姉に応募してもらいました。運よく最終選考まで残り、(芸能人を目指して)頑張っている人たちには申し訳ないくらい、軽い気持ちで東京に出てきたんです」
――しかし間もなく充電期間に。“思っていたのとは違う世界”だったのでしょうか?
「例えば歌をやりたいとか役者をやりたいというような目標が当時は何もなく、ただテレビに出たいというだけだったんです。自分の中のイメージとしては芸能界に入ったらすぐバラエティ番組に出られるというイメージで、レッスンに通いながらドラマの撮影に行ったりしていましたが、何をモチベーションにしたらいいかもわからなくて。現場に行って撮影しながら、わけもわからず怒られて、これが本当に自分のやりたいことなのかな、と疑問に思ったんですよ。
それで自分探しと言うか、一回芸能界を離れて、とはいえ名古屋に戻るわけにもいかないので東京でバイト生活をしながら、1年半くらい自分のやりたいことを探していました。半分意地みたいなのはありましたよね。親からも友人たちからも“頑張って来てね”と期待されて送り出されていたので、半年くらいで帰るわけにもいかず(笑)。せっかくだから東京でやりたいことを見つけようとアルバイトをするなかで、音楽に出会って、初めて歌を歌いたいという目標が出来たんです。
友達にCDを借りて聴いたザ・ベイビースターズの『去りゆく君へ』という曲が衝撃的で。それまで音楽を聴いて泣くとか感動することってなかったんですけど、その曲が自分の置かれている状況とちょっと似ていたんですよ。その曲は恋愛の話で、渋谷を舞台に、彼女が夢を追いかけて二人は違う道を歩んでいくという状況が、地元の友達たちは進学したり就職したりしているなかで自分は取り残されているという状況と重なって聞こえたんですね。僕は何をやっているんだろう……と感銘を受けてしまい、歌を目指すようになったんです。
歌うことで気持ちや思いを伝えられたら。『去りゆく君へ』が自分にとってそうだったように、僕の歌で聴く人の何かが変わる……ちょっと前向きになるとか人にやさしくなるとか、そういう変化のきっかけになれたらいいな、と。自分がその感覚を知ってしまったからこそ、音楽をやりたいなと思いました。音楽の知識もバンド経験もなくて、本当にゼロからのスタートだったんですけどね。その『去りゆく君へ』を書いた田中明仁さんには、新曲の『snow drop』でも作詞作曲をやっていただいています」
新譜『snowdrop』(CD+DVD)は加藤和樹さんの音楽活動に大きな影響を与えた田中明仁さんの作詞作曲。ミュージカルとは一味異なる、加藤さんの柔らかな歌声を聴くことができる。オフの日の彼とデートをしているような気分になれる演出のPVは必見!
「人前に出るためには度胸も必要だと思って、好きな作品でもあったし、友達が出ている公演を観たこともあったので、最初に受けたオーディションが『テニスの王子様』でした。やってみて、ライブというものがものすごく好きになりました。映像ももちろん好きですけど、目の前のお客さんにストレートに伝わるというのが凄く好きで。同じことをやってもお客さんが違えば、ちょっとした違いもあって面白い。その感覚は、その場にいる人しかわからないですよね。結果的にはこの舞台がきっかけで声がかかり、CDデビューも果たしました」
――06年には『仮面ライダーカブト』にも出演されました。
「男子としてはヒーローである仮面ライダーには小さいころから憧れていたし、毎年オーディションは受けていて毎回、最終選考までは残っていたので、『カブト』でようやく声をかけていただいて嬉しかったです。若手の役者の登竜門にもなっていますしね。もちろんお仕事ではあるけれど、この番組でヒーローになった経験は、自分の人生の誇りになると思います。家族で観ていただけるのも嬉しかったですよ。
その頃は同時進行で音楽活動もしていて、僕の(メインとなる)回は季節労働者のように、アナザーストーリー的に撮っていただいていました。仮面ライダーで僕を知ってくれた人がライブやお芝居を観に来てびっくり!ということは、今でもけっこうありますね」
*次ページでミュージカル俳優・加藤和樹を強烈に印象づけた『ロミオ&ジュリエット』、その後の活躍と今後の夢についてうかがいました!