知ってる? 自分の町のこんな表情『いろいろないちにち』
文字のない絵本『いろいろないちにち』。各ページには、ある港町の時間によって変わっていく様子がびっしりと描かれています。午前4時からのスタートで、2時間ごとの様子。午前4時から明かりがついているのはどんなところかな? 午前6時に一番活気があるのはどこか、「港町」でピンと来る方もいるかもしれませんね。既に仕事が始まっているお店などもあちこちに。午前8時は町が活発に動き出す時間。駅のホームも電車も人でいっぱい。午前10時は、8時に比べると道行く人の姿は減っていますが、子どもたちが元気に活動している場があります。午前12時のお昼時は、午後2時の昼下がりは、夕方に入る午後4時は?
こんな風に定点観測で自分の住む地域を俯瞰的に考える機会ってあまりないですよね。あちこちで展開されるあまりにも多彩な町の風景や人々の様子、表情に心を奪われ、絵本の町の中にグイッと引き込まれていきます。
ページをめくるたびに見つかるドラマ
最初は町全体の時間による大まかな変化がとにかく楽しめます。細部まで風景や人物の様子が描き込まれた絵は、幼児期前半の子から小学生にとどまらず、この絵本を開いた幅広い年代の子どもや大人の心をつかむことでしょう。小さな子は、まずは自分の興味があるものに目がいくかもしれません。時間によって異なる種類の列車の姿。横になって眠れる電車があることにびっくりする子もいるかもしれませんね。 夜が明けて明るくなってくると、山の方に見える高速道路にも車の姿がいっぱいです。幼児期後半、小学生ぐらいになると、もっと細かいことに気づき始めそうです。このページでここにいる人は、次のページではここにいて、こんな表情で別のことをしているよ。子どもはこういう細かいことに気づくのが得意ですね。私は午前10時に、ある家の中で赤ちゃんのおむつ替えをしているお母さんの姿が目に入りました。その母子の姿が次の次のページで家の中になかった時、どこにいるのか一生懸命探してしまいました。
登場する人々の数、そして、絵を眺める人々の数だけ、バラエティに富んだドラマが、絵本の中に詰まっています。
自分たちで物語を作ってみよう
町、人、風景へのあふれんばかりの愛に満ちた絵本。にぎやかで活気にあふれた町の雰囲気ですが、もちろん、明るく嬉しい気分の人ばかりが存在するわけではありません。あるページには、ひっそりと涙を流している人の姿もあります。その人はどうして涙を流しているのでしょうか。作者の中村まさあきさんは、この町の風景と数えきれないほど出てくるたくさんの登場人物たちを描くために、どのぐらいの規模の都市でどんな産業が盛んな町なのかということや、登場する人たちの家族構成や生活背景まで実に細かく豊かに設定し、いくつものドラマを誕生させています。巻末のメッセージには、その設定について詳しく書かれており、こちらも大人には物語として深く味わえる内容です。
文字のない絵本ならではの、自由に広がる世界。ぜひ、繰り返しページをめくりながら想像力、創造力を駆使し、親子で、家族で、色々な物語を作ってみてください。