『ラ・カージュ・オ・フォール 籠の中の道化たち』
2月6~28日=日生劇場 3月6~8日=梅田芸術劇場メインホール『ラ・カージュ・オ・フォール 籠の中の道化たち』
元祖“ありのままの私”肯定ミュージカルとして、83年のブロードウェイ初演以来、世界的に愛されている本作。日本では85年に初演、今年30周年を迎えます。南仏のゲイ・クラブを舞台に、オーナーであるジョルジュと看板スターのアルバンが、息子ジャン・ミッシェルが結婚することになり、婚約者の両親に「ふつうの家庭」と思ってもらえるよう奔走するものの、大事な場面で大失敗! 大小の笑いを交えつつ、高らかに人間賛歌を歌い上げる感動作です。
記念すべき今回の公演は、2008年以来続く鹿賀丈史さん、市村正親さんのコンビで上演。長年の盟友である二人が、実体験を役に反映させ、あうんの呼吸でジョルジュ&アルバンをおかしくも味わい深く魅せてくれそう。日本初演の85年以降ずっと同じ役を演じ続けているダンドン夫人役・森公美子さん、ハンナ役の真島茂樹さんにも注目です!
『ラ・カージュ・オ・フォール 籠の中の道化たち』
「人生は素晴らしい」と思わせてくれるミュージカルは数多あっても、もう一歩踏み込んで「年をとるのは素敵」とまで感じさせる舞台となると、そうそうお目にはかかれません。それは一つには、ミュージカルではシニア世代を主軸に置いた作品が少ないこと、出演者にとってはダンスや歌唱という要素ゆえ身体的にハードな舞台芸術であり、長期的な活躍が容易ではないこと、さらに昨今の世界的な傾向として「若さ」ばかりが追求されていることが要因と言えるでしょう。
『ラ・カージュ・オ・フォール 籠の中の道化たち』
場面がクラブ隣の住居に移ると、ジョルジュの20年来のパートナー、アルバン(市村正親さん)がエプロン姿で登場。仕事優先のジョルジュに拗ねる「妻」のかわいらしさを見せた後、ひとり鏡台に向い、年齢という現実にめげそうになりながらも「強い味方はマスカラよ~」と奮起し、クラブのスター"ザザ"へと変身していきます。化粧品頼みのコミカル・ソングのようでありながら、実際にはアルバンの強靭な精神力が浮き彫りになるこのナンバーは最初のクライマックス。味わい深い歌唱で唸らせた後、市村ザザは大きな鬘に2015年仕様(?)の羊の簪を挿して華やかに現れます。
『ラ・カージュ・オ・フォール 籠の中の道化たち』
本来なら喜ぶべき息子の縁談ですが、アンヌはゲイを敵視する保守系の議員ダンドンの娘。その夫妻が訪問するので実の母親を呼び、一晩だけ"普通の家族" を装って欲しいとジャン・ミシェルに頼まれ、ジョルジュは困惑します。それを知ったアルバンは、ジャン・ミシェルに悪意は無いとしても、人格を全否定をされたような境地で、深く傷つく。それでも舞台に立つと「この世界にただ一人の私、言い訳はするものか」と顔を上げて歌い、毅然として去ってゆきます。この「懸命に生きてきた人間の尊厳」を凝縮した1幕終わりは、『勧進帳』の弁慶の花道引っ込みにも匹敵する名場面と言えましょう。
『ラ・カージュ・オ・フォール 籠の中の道化たち』
『ラ・カージュ・オ・フォール 籠の中の道化たち』
*次頁で『Golden Songs』以降の作品を紹介します!