ジャニー喜多川氏
「僕らが扱っているのは”人間”」
ジャニー喜多川氏が事務所を立ち上げるきっかけともなったのが、1961年公開の映画『ウエスト・サイド物語』。中でもジャニーさんが1番好きだという作品中のナンバー「cool」を聞いたところで蜷川さんから核心とも取れる質問が発せられます。
「いい子だと思って採ったら実はダメだった、って子も居るでしょう?」
この問いに対してジャニーさんは「いない。僕等は”人間”を扱っている。どんな子でも輝きや良い所を持っている。」と返答。
アイドル作りは人間作り、芸能界で1番大切なのは”真面目な事”と話すジャニーさん。その語り口はとてもソフトで謙虚。マスコミで独り歩きしている「ジャニー喜多川」氏のイメージとは大きく異なるものでした。
蜷川幸雄氏
「問題児の方が伸びる」
番組冒頭からしばらくはホスト役として聞き手になっていた蜷川さんが自らの”俳優論”を語るのは番組後半になってから。この時に蜷川さんの口から出た俳優名は藤原竜也さんと綾野剛さん。中学生の時は眉を剃っていたという藤原さんに対して「どちらかというとひねくれていて、問題児の方が伸びる。」と語る蜷川さん……何だか嬉しそうです。
「30代になった俳優に演劇的な経験を積ませてシェイクスピアの台詞を喋れるようにする。」「テレビのインタビューで生意気な態度を取っていたらすぐ電話。」「稽古場にどういうテイで入ってくるかという所から俳優を見る。僕らの仕事は共同作業。集団で気持ち良く仕事をする事が大事。」「死ぬ前にもっと色々なことを伝えて、自立出来る俳優を育てる。」
「この腐った世の中に危機感がなければバカ。」……そう言い切る蜷川さんからはいつまでも変わらず”挑戦者”として現場に居続けるという覚悟を感じました。
時代を走り続ける二人のトップランナー
『蜷川幸雄のクロスオーバートーク』第1回放送分として実現した二人のトップランナーの対談。比較的マスコミの取材を受ける機会が多い蜷川さんはともかく、新聞・雑誌等の紙媒体にコメントを出すことはあっても、その姿や肉声を公にすることがほぼないジャニー喜多川氏が、こういう形でメディアに出演し、独自の「タレント論」や「舞台に対するこだわり」を語ったことはエンタメ界の大ニュースではないでしょうか。
ラジオから流れるお二人のトークを聞いていて、個人的には蜷川さんが「いつまでも闘い続ける人」であり、ジャニーさんは「ただ真っ直ぐに夢を追う人」という印象を受けました。
約2時間のオンエア中、ジャニー喜多川氏の口から否定的な言葉やネガティブな単語はほぼ出ず(唯一氏が否定的な言葉を発したのは”今の若い子は皆同じ髪型でつまらない”という文言のみ)
「芸能は自分にとって一つの宿命。素晴らしい世界である。」「昔は良かった、なんて一度も思った事はない。今が一番良い。」「理屈っぽいジジイみたいなことは言わない。カッコ良く生きたいから。」「3時間の(舞台の)中で、1分でも(観客が)気に入らない所があったら返金する。」等々のポジティブ名言も飛び出し、終始和やかなムードでオンエアは終了。79歳と83歳……常に変化を恐れずトップを走り続けるお二人のトークは非常に聞き応えのあるものでした。
9月の番組収録後、11月に海外公演先の香港で倒れ、日本の病院に緊急搬送された蜷川さんですが、1月22日には彩の国さいたま芸術劇場で自身が演出する藤原竜也さん・満島ひかりさん主演の舞台『ハムレット』の幕が開きます。
また帝国劇場ではこのラジオ番組のオンエア日と同じ1月1日に初日を迎えたジャニー喜多川氏作・構成・演出の舞台『2015新春ジャニーズ・ワールド』が上演中。
きっちり同じラインの上を進む事はなくとも、どこかでリンクしながら日本のエンタメ業界にエネルギーを注入し続けるであろう蜷川幸雄氏とジャニー喜多川氏。79歳と83歳の二人の活躍から今年も目が離せません。
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