2004年に渋谷・PARCO劇場で幕を開け、あっという間に大評判を得て2008年には再演、更に中島哲也監督の手により映画化もされた『パコと魔法の絵本』(舞台初演時のタイトルは『MIDSUMMER CAROL~ガマ王子VSザリガニ魔人~』)。この素敵な作品が『Paco~パコと魔法の絵本~』とタイトルをプチリニューアルし、6年振りに劇場に帰ってきました! 2月7日に日比谷のシアタークリエで初日の幕を開けた本作を演劇ガイドがレビュー形式でリポートします。

パコ

(撮影:演劇ガイド・上村由紀子)


入院中の少女・パコと問題を抱えた大人達の
ほんのりビターなファンタジー

◆ストーリー
舞台はとある病院。緊張感のない医師ときっぷの良すぎる看護師が迎える入院患者たちは、自殺未遂を繰り返す子役出身の俳優、いわくつきの銃創を負うヤクザ、仕事中に骨折した消防士等、どこかに問題を抱えた大人達。中でも特に酷いのが、我儘で偏屈な初老の男・大貫。我儘三昧、意地悪の限りを尽くすこの男に病院中がいつも迷惑を被っている。そんな中、同じ病院に入院中の少女・パコが大貫の前に現れる。彼女がいつも枕元に置くお気に入りの絵本のタイトルは『ガマ王子VSザリガニ魔人』。

パコによって次第に変化する入院中の大人達、そして”クソジジイ”大貫。ある時彼らはパコの為に彼女の大切な絵本の物語『ガマ王子VSザリガニ魔人』をお芝居として上演しようとするのだが……。

パコ

(撮影:演劇ガイド・上村由紀子)


物語は大貫を大叔父に持つ浩二(伊礼彼方)と大貫と同じ病院に入院していた堀米(マギー)の回想と云う形で進んでいきます。病院では全入院患者から”クソジジイ”と嫌われ、「私の名前をお前が知っているってだけで腹が立つ!」と常に周囲を威嚇していた大貫(西岡徳馬)が何故変わって行ったのか。そして彼の心に大きな影響を与えた少女・パコ(谷花音 /キッド咲麗花 Wキャスト)とは一体どんな女の子だったのか……。

パコ

(撮影:桜井隆幸)


初演で大貫を演じた木場勝己さんからは「過去に何か大きな裏切りや辛い目に遭い、こうなってしまったんだな」、再演の吉田鋼太郎さんからは「大人の真性ガキ大将」という印象を受けたガイドですが、今回の大貫役・西岡徳馬さんは「すぐ近くに居そうな人物」という感じ。過剰なデフォルメはせず、よりリアルに大貫と云う人物を演じているように見えました。

昔この病院で亡くなった子が作った花壇の花をめちゃめちゃに踏み荒らし、怪我人を殴り付け、病院の医師やスタッフ達にも我儘を押し通す……そんな大貫が病院で出会い、大きな影響を受ける少女・パコ(取材日の出演は谷花音さん)。

パコ役の女優さんから”あざとさ”や”嘘臭さ”を少しでも感じ取った瞬間、観客は目の前で起きる全ての事を信じられなくなってしまいます。パコはどう演じるか、というより舞台上でどう生きるかという事が問われる要のキャラクターだと思うのですが、花音ちゃんのパコはとにかくピュアでチャーミング。一挙手一投足の全てが愛らしく、あの瞳で見つめられたらそりゃあクソジジイ・大貫もグラグラ来ちゃうよね、と超納得……彼女の初舞台とは思えない存在感と透明感にグっと心を掴まれます。

カンパニーのムードも最高! 笑いと涙が交差する舞台

パコ

(撮影:演劇ガイド・上村由紀子)


本作を客席で観ていて響いた事の1つが、パコと大貫を取り巻く病院関係者や入院患者たちを演じる俳優陣のチームワークの良さでした。なかなか本心が見えない医師・浅野を演じる吉田栄作さんのどこかすっとぼけた演技も可笑しいですし、強気に見せつつ実は入院患者に可愛い恋心を抱いている看護師・光岡役の安倍なつみさんは台詞の声がとても澄んでいて客席まで真っ直ぐ届く。大貫の甥・浩一(浩二と二役)を演じる伊礼彼方さんの明るいヘタレっぷりとその妻・雅美役の川崎亜沙美さんのパンチがある演技のコンビネーションは夫婦漫才モードで最高!

本作の初演、再演、映画、そして今回と皆勤賞の山内圭哉さんのファンキーでどこか憎めないヤクザ・龍門寺はつい目で追ってしまいますし、おばちゃん代表のような主婦・木之元役の広岡由里子さんの何とも言えない間合いには目に涙を浮かべて笑ってしまいました。

パコ

(撮影:演劇ガイド・上村由紀子)


子役から大人の俳優に脱皮が出来ず、何度も自殺未遂を繰り返し、その度に病院に運ばれる青年・室町を演じる松下優也さんは前半の内向的な芝居が嘘のように、後半で全てを吹っ切ったかのように弾ける姿が素敵ですし、消防士への職務復帰を目指して頑張る滝田役の上山竜司さんのキラキラした瞳にもヤラれます。

時や場所の移動をセット割りされた回り舞台を効果的に使う事で、観客の気持ちにストッパーをかける事なく物語の世界にすっと入り込ませ、登場人物全員の台詞と感情のキャッチボールや舞台上でのフォーカスの設定をとことん明確にし、上手く運んだG2さんの演出は流石。盟友・大王こと後藤ひろひとさんの戯曲は笑いと涙のバランスが絶妙……ゴールデンコンビの久々の復活に胸が高鳴ります。

ちょっと疲れた大人にこそ観て欲しい


パコ

(撮影:演劇ガイド・上村由紀子)


「お前が私の名前を知っているというだけで腹が立つ!」と、周囲に毒づいていた大貫が、あるきっかけからパコに”自分の事を覚えて欲しい”と心から願い、そんな大貫の想いを叶えようと、絵本の物語を演じるダメダメな入院患者たちも次第に忘れていた何かを取り戻していく。そして起きる……”奇跡”。

私達大人は、日々を生きていく上で毎日がそうキラキラしていない事も知っていますし、人生どちらかと云うとキツい事の方が多い事も実感しています。でも……だからこそ、劇場の客席に座って舞台上の世界に身を任せる時間くらいは、見えない所に入っている力をすっと抜いて、笑ったり泣いたり……自分の心を違う世界に羽ばたかせてあげる事も大切じゃないかと思うのです。

物語の最後に新たに始まるストーリーにドキドキしながら、きっといつもより晴れやかで優しい気持ちになって劇場を出る事が出来るほんのりビターなファンタジー……『Paco~パコと魔法の絵本~』。実はちょっと疲れた大人にこそお薦めしたい1本です。

『Paco~パコと魔法の絵本~from「ガマ王子vsザリガニ魔人」』

◆2014年2月7日(金)~25日(火)シアタークリエ(日比谷)
※東京公演終了後、地方公演あり
◆スタッフ 作:後藤ひろひと  演出:G2
◆出演
谷花音・キッド咲麗花(Wキャスト)
西岡徳馬 松下優也 安倍なつみ 伊礼彼方 上山竜司 川崎亜沙美 広岡由里子 マギー
山内圭哉 吉田栄作

アフタートーク、地方公演等の詳細は → 公式HP


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