手塚治虫は自分の一部のような存在。
ロボットと人間の関係性を肌で感じながら育ってきた
——ラルビさんのダンス作品『Babel (words)』でも女性アンドロイドが出てきたり、物事をデフォルメしながら本質を突くとか、手塚治虫の影響が感じられましたが、それだけ手塚治虫がお好きだということですか。手塚治虫は自分の一部のような存在です。私の成長過程で、彼が描いた多くのキャラクターから影響を受けました。小さい頃から近未来的な世界で存在するロボットと伝統的なもの、ロボットと人間の関係性を肌で感じながら育ってきたのです。漫画やアニメも子供の頃からよく読み、観てきました。なので、いつの間にか、自分の作品にもそういう影響が出ているようですね。手塚治虫が漫画やアニメの世界に多大な影響を与え、またその影響を与えた漫画家から本人が影響を受けたように、手塚治虫は私の仕事にも波及していると思います。
『Babel (words)』は『テ ヅカ TeZukA』の1年前に作られた作品ですが、『テ ヅカ TeZukA』を作ったことで『Babel (words)』についても、自分がいかに手塚治虫に影響されているかを実感しました。
またコンテンポラリーダンスはユーモアが欠ける傾向があるのですが、『Babel (words)』では一緒に作ったダミアン・ジャレさんと、コミカルな部分が欲しいという話になり、笑いにつながるシーンも作りました。笑うということは健康的ですし魂にも良いことです。
『プルートゥ PLUTO』はとても悲劇的な内容ですが、ところどころ、どこか笑いで発散できるシーンがあってもいいかな、と。ウランはとてもお茶目なキャラクターなので、彼女が喋るとその独特な声が笑いになり心が温まるとか、できたらいいですね。
——台詞はすべて日本語ですが、ラルビさんご自身は日本語をどう捉えているのでしょう?
言葉がわからない分、良い経験もしています。たとえば構文が違い、重要なことが最初に来たり、最後に来たりします。言語の違いについては、ヨーロッパでフランス語、英語、オランダ語などに関わる作品をやったことがあり、多少なりとも違うという経験はしています。
ただ日本語については言葉が全くわからない分、表情で伝わってくるかこないかで判断できるのがいいところだと思います。目の表情やエネルギーの流れ、手や身体の動きなど、ボディランゲージの部分をよく見て、演出をつけています。台詞は訳された台本と照らし合わせばわかりますから、身体表現からその内容が伝わってきているかどうか、判断しています。脚本は音楽に喩えると楽譜みたいな扱いといえるでしょう。何も喋っていない間の部分も重要です。
日本語で苦労する点としては、短い台詞を理解することでしょうか。「はい」「いいえ」「多分」「何?」など、短いフレーズのほうが、本当に気持ちがこもっているのかどうかを判断しづらいです。また日本語で難しいのは、誰かに何かを頼んで「はい」と答えたから了解してくれたと思っても、本音は「いいえ」だったりします(笑)。そのあたりは何度も日本に来ているので、日本人のメンタリティが違うこともやっとわかってきました。
【公演情報】
『プルートゥ PLUTO』鉄腕アトム「地上最大のロボット」より
東京公演 2015年1月9日(金)~2月1日(日) Bunkamuraシアターコクーン
大阪公演 2015年2月6日(金)~11日(水・祝) 森ノ宮ピロティホール
※記事中の手塚治虫・手塚プロダクションの「塚」はすべて旧字です。
シディ・ラルビ・シェルカウイさん。