世界遺産/ヨーロッパの世界遺産

セゴビア旧市街とローマ水道橋/スペイン(3ページ目)

「悪魔の橋」ローマ水道橋、「白雪姫の城」アルカサル、「大聖堂の貴婦人」セゴビア大聖堂、「騎士団の教会」ラ・ベラ・クルス……。1世紀に造られたローマ時代の遺跡からスペイン帝国の繁栄を示す中世の城まで、セゴビアは2千年の歩みをいまに伝える歴史都市。今回はマドリードにほど近いスペインの世界遺産「セゴビア旧市街とローマ水道橋」を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

美都市・セゴビアの歴史

セゴビア大聖堂

セゴビア大聖堂の北ファサード(正面)。ゴシックといってもフランスやドイツのものほどトゲトゲしくはなく、重厚な造り

セゴビアの歴史を簡単に紹介しておこう。

サン・エステバン教会

個人的に大好きなサン・エステバン教会。フィレンツェのジョットの鐘楼を彷彿させるバロック様式の塔がまた美しい

ローマ人が侵入する以前、この要塞都市はケルト人が暮らす砦だったという。その砦をローマが落として城砦を造り、城壁で囲ってセゴビアの街を造り上げた。近くに川がたくさんあるのにこれほどの水道橋を造って水を引いたことから、ローマの経済力の大きさがうかがえる。

その後、8世紀にウマイヤ朝(アラブ帝国)がイベリア半島を侵略すると、街とローマ水道橋の一部が破壊されてしまう。11世紀にカスティリャ王国がセゴビアを征服すると、地方を取り仕切る司教座(カテドラ)が置かれ、大聖堂(カテドラル)が設置されて主要都市として発展。城壁等も修復された。

 

サン・アンドレア教会

こちらはサン・アンドレス教会

その後セゴビアは毛織物業で繁栄し、12世紀にはケルト人の城跡とローマ時代の城壁を利用して国王アルフォンソ6世がアルカサルを建設する。この頃のアルカサルは砦のようなものだったが、13世紀にアルフォンソ10世が王宮として増改築を行った。

1474年にはアルカサルで女王イザベルの戴冠式が行われた。そのイザベルがアラゴン王子フェルナンドと結婚して誕生した連合王国がスペインだ。スペインは1492年にコロンブスを大西洋に旅立たせ、これをきっかけにヨーロッパ、アメリカ、アジアに至る「太陽が沈まぬ帝国」を築く。

 

1561年にスペイン国王フェリペ2世が王宮をマドリードに建設すると、アルカサルの王宮としての役割は終わり、城砦や牢獄として使用される。1762年、カルロス3世がアルカサルに王立の砲兵学校を設立。1898年には軍事博物館が設けられ、平和的に利用されるようになった。

歴史都市セゴビアの見所

ラ・ベラ・クルス教会

アルカサルからの眺め。中央に建つのがラ・ベラ・クルス教会 ©YOSHIHIRO TAKADA/a.collectionRF/amanaimages

世界遺産「セゴビア旧市街とローマ水道橋」は地区一帯を登録した世界遺産。そのハイライトを紹介しよう。

■水道橋
18km先のフリオ川から水を運んだローマ時代の水道橋で、2万個以上の花崗岩で造られている。イスラム教徒による破壊などもあったが、女王イザベルをはじめ時の王たちがこれを修復し、大事に伝えられた。現在も水道管の中を水が流れている。

■セゴビア大聖堂
セゴビア大聖堂の身廊

セゴビア大聖堂の身廊。天は明るく、光に満ちており、その下でステンドグラスが聖書の物語を伝えている

薄いオレンジ色をしたゴシック様式の大聖堂で、その優美な姿から「大聖堂の貴婦人」の異名をとる。建築は1525年にはじまり、約250年後の1768年にようやく完成した。全長は100mを超え、内部は見事なステンドグラスや彫刻で彩られている。

■アルカサル
紀元前の時代、ケルト人の砦に起源を持つ城砦兼王宮。長きにわたって増改築を繰り返したため建築様式が混在しており、たとえば塔はイスラム教のモスクの塔・ミナレットの影響を受けたムデハル様式となっている。内部は公開されていて、王の間、諸王の間、王の寝室、砲兵学校博物館、フアン2世の塔などが見学できる。

 

■ラ・ベラ・クルス教会
ラ・ベラ・クルス教会

ラ・ベラ・クルス教会。イエスが処刑されたときに磔にされた十字架の聖遺物が収められているという ©Karsol Dreamstime.com

旧市街の外にあるかわいらしい教会。騎士修道会・テンプル騎士団によって建てられた。十二角形をした集中式(点対称)の建物で、カトリックの国ではあまり見ない形状。これはテンプル騎士団の成立・発展がエルサレムなど東方を舞台にしていたことによる。

■その他の教会群
セゴビアには11世紀以降に建てられたさまざまな教会がある。レンガ造りの塔とシンプルな円柱型が美しいサン・アンドレス教会、ロマネスク様式の重厚感が魅力のサン・マルティン教会やサン・クレメンテ教会、「塔の女王」といわれる美しい塔を持つサン・エステバン教会、市街の外にたたずむサンタ・マリア・デル・パラル修道院など、見所多数。

 

■広場
教会を建てる際、周囲に必ず広場を置いた。そのため歴史ある広場が多く、周囲と調和した姿が美しい。セゴビアで有名な広場といえば、水道橋のあるアソゲホ広場と大聖堂近くのマヨール広場。でも、何げない広場が印象的だったりするので、小さな広場にも足を伸ばしてほしい。

■家並み
セゴビアの家々

一軒一軒の家々がとても味わい深い

中世の家々が立ち並ぶ家並みがまたすばらしい。有名なところでは、四角錐の突起が壁から突き出しているカサ・デ・ロス・ピコス(嘴の家)、化粧漆喰の彫刻が美しいアル・プエンテ伯爵邸などがある。

■メソン・デ・カンディド
セゴビアの名物コチニージョ・アサド(子豚の丸焼き)が味わえる名店。水道橋に面したアソゲド広場の一角にある。

 
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