お金を出して店番し、本も提供。
人に会うことを楽しむ街の居場所@国立市
普通、店番はお金をもらってするものである。ところが国立市にある国立本店ではメンバーが自分で毎月3000円の参加費を払って月に一度、13時から18時まで店番をするという仕組み。店(?)に並ぶ本も基本的には自分で持ってきた本である。「何が楽しいのか?」と思う人もいるだろうが、参加している人たちにはこれが楽しいらしい。
「本が置いてあり、一部は貸出しもしてはいますが、ここは誰もが気軽に立ち寄れる街の居場所。人と会う、人と会って何かする、遊びで真剣になる、そういうことが好きな人にはとても楽しい場所だろうと思います」(国立本店を企画・運営するほんとまち編集室 加藤健介さん)。
たとえば、現在行われているのは、メンバーがそれぞれ架空の人物を作り、その人が読みそうな本をくじで担当することになった他のメンバーが用意するというもの。猫を飼う一人暮らしのスナイパーがどんな本を読むか。想像しながら本を用意するのはもちろん、その設定で並べられた本を眺めるのも楽しいという、言ってみれば知的なゲームである。
過去には「まち」をフィールドにプロジェクトを展開するアーティストとコラボ、地元国立を文庫本に見立てて取材し、書籍にする作業が行われているなど、参加する気になれば面白いことができる、ここはそんな場所なのである。
訪れる人にも楽しみがある。ここに来れば誰かがいるのだ。「34人のメンバー全員に会いたいからとほぼ毎日来る常連さんがいたり、個性的な常連さんに会いにとほぼ毎日、日野から通ってくる20代後半の女性がいたりと、本を読むことに加え、人に会うことを目的にしている人が多くいらっしゃいますね」。
仕事場、家庭以外で気軽に誰かと話す機会が少ないという人にとっては、いつも誰か、顔見知りがいる場はえがたいのだろうと思う。最初は入りにくい印象を持っていたという人も一度入ってしまうと、居心地が良いらしく、長居することが多いそうだ。
ところで、ここで話を伺わせていただいた加藤さんは2014年7月に世田谷から国分寺に引っ越してきており、理由はこの活動などを通じて国立や国分寺に友だちが増えたからというもの。
最初にご紹介した船橋の岡さんは「その街に友だちが100人いたら引っ越さないでしょ?」とおっしゃったが、これはまさに至言。誰一人知る人がいない街に暮らすより、友人がいる街に暮らすほうが楽しいし、友人がいない街に引っ越すなら、そこで新しい友人を作れば暮らしはぐっと楽しくなる。きっかけはいろいろあろうが、今回ご紹介したような場がある街なら、するっと街に入り込んでいけそうな気がする。
古書店、イベントを開催している書店なども
街になじむ窓口になる
もし、そこまでの場がない街であれば、古本屋さんを訪ねてみるのも手。新刊中心の書店では目的の本を求めて買いに行くことが多いが、古書店の場合には訪れる人の目的性は薄く、逆に書店員、書店主の取り扱い分野への造詣は深い。「こんな本を探している」から「どんな本を読んだらいいか」まで相談に乗ってくれる可能性は高く、それを機に会話が生まれる。
古書店の場合、どんな本を取り扱っているかなど得意分野が新刊中心の書店より明確で、自分の趣味に合っているかどうかが分かりやすい。ちなみにまどそら堂はSFや料理、70年代の漫画、旅などの本が多いそうだ(クリックで拡大)
「小さな店なのでなんとなくお客さんと話が始まることもしばしば。今度彼女が部屋に来るので恰好づけのために何か本を置いておきたい、どんな本がいいかという相談を受け、村上春樹の『ノルウェイの森』を紹介したものの、予算がないからか上巻しか買わなかった学生さんが1か月後、やはり下巻も欲しいと買いに来たことも。そんな風にして顔なじみが増えるのはお互いに楽しいことですね」。
まどそら堂では好きな酒を片手に、好きな本を朗読するイベントも行っており、こうした場を通じて人に会い、街に溶け込んでいくこともできる。こうしたイベントは新刊を中心にした書店でも開催している例があるので、住んでみたい街があったら書店をチェックしてみるというのも役に立つかもしれない。