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マンション管理費の滞納債権を回収する方法

管理費等の滞納問題は早めの解決が何より大切ですが、それが長期間に及んだ場合には、法的手段を取らざるを得ません。滞納債権の回収について基本となる法的手段と、滞納期間中に起こりうるケースへの対応方法をご紹介します。

村上 智史

執筆者:村上 智史

マンション管理士ガイド

おカネ

滞納が長期化すると厄介です・・・

マンションの築年数の経過とともに増加傾向にあるトラブルが、管理費等の滞納問題です。

たとえば築30年超のマンションでは、6ヶ月以上の長期滞納者がいる管理組合が全体の約3割を占めているというデータもあります。(国交省の平成25年度マンション総合調査による)

管理会社に事務管理を委託している場合、滞納が発生しても、初期段階の督促対応は管理会社が実施するのが通常です。

しかし、滞納が長期に及んだ場合には、債権の消滅時効(5年間)を中断させるためにも、管理組合自身が法的措置をとって回収に乗り出す必要が出てきます。

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「早めの対応が肝心!管理費滞納問題」

マンション管理士としては、滞納状況に応じて円滑に債権を回収するためにどのような措置を講じるべきか、それぞれの要件や手続きを正しく理解し、管理組合に対して適切にアドバイスできなければなりません。

管理費等の滞納の債権回収について、基本となる法的手段と、滞納期間中に起こりうるケースへの対応方法をご紹介します。

先取特権の実行による方法

管理費等の債権については、マンションの共用部分や附属施設等を共同して維持管理するという目的から、他の一般債権より優先的な立場が与えられており、これを先取特権と言います。

このため、管理費等の滞納がある場合には区分所有権(および建物に備え付けた動産)を訴訟によらず競売にかけることができます。(以下、区分所有法第7条を参照)

(先取特権)
第七条  区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。
2  前項の先取特権は、優先権の順位及び効力については、共益費用の先取特権とみなす。
3  民法 (明治二十九年法律第八十九号)第三百十九条 の規定は、第一項の先取特権に準用する。
ただし、この先取特権の優先順位は登記された抵当権等には劣るため、それが実行に際して障害になることが少なくありません。というのも、多くの区分所有者は購入時にローンを組んでおり、その区分所有権に抵当権が設定されているからです。

したがって、滞納者の残債が区分所有権の時価に比べて大きい場合には、競売になっても管理組合にまで配当が回らないので、競売の開始決定が裁判所に取り消されてしまいます。

また、専有部分に備え付けられた動産(エアコンや換気扇など)から競売請求する必要があるうえ、滞納者が差押えを承諾する文書を提出することが条件になるなど、先取特権の実行にあたっては制約が多いことに留意する必要があります。

債務名義を取得する方法

裁判シーン

やむを得ない場合は、通常訴訟も選択肢

先取特権の実行で債権を回収できない場合には、債務名義を取得したうえで最終的には滞納者の債権(給与など)に対して強制執行することで、債務の弁済を受けることができます。

債務名義とは、「国の強制力によって執行できる請求権の存在・範囲を表示した文書」をいい、訴訟による判決のほか、民事調停、即決和解、支払督促などの方法で取得できます。

上記の選択肢の中では、簡易裁判所で取り扱われ、比較的経済的負担が少なく済む支払督促もしくは少額訴訟制度を利用するのがよいでしょう。

ただし、支払督促に対して滞納者から異議が申立てられたり、訴訟対象となる債権が高額に及んだ場合には通常の訴訟で争わざるを得ません。

通常訴訟の場合、管理組合の理事長が原告となるとともに、原告代理人として弁護士を起用することになりますが、管理規約に特に定めがない限り、この手続きについて総会決議で承認を得る必要があります。

次ページでは、滞納債権回収に際して起こりうるケースへの対応についてご案内します。
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