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ウイスキーの香りに隠された知られざる薬効成分

ウイスキーの熟成の過程では、原酒成分やオーク材成分が複雑な反応を重ね、ポリフェノール類をはじめとする多様な成分が生成されます。その中にはアレルギーを鎮める成分もあることが分かりました。

小林 ひとし

執筆者:小林 ひとし

環境・健康ニュースガイド

ウイスキーは、オーク(樫)材でつくられた樽の中で何年も熟成させることで、独特の香りとまろやかさをもつモルトになります。この「樽熟成」でウイスキー成分やオーク材成分が複雑な反応を重ね、ポリフェノール類をはじめとする多様な成分が生成されます。

これらの成分の中に、抗アレルギー作用をもつ物質が含まれていることが明らかにされました。サントリーホールディングス(株)、(財)岐阜県国際バイオ研究所および静岡県立大学薬学部の共同研究により、ウイスキー中に存在する抗アレルギー成分の分離と構造決定に成功したのです(日本薬学会2009年3月)。

まずはウイスキーの製造過程から、その神秘のプロセスを見ていきましょう。

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樽熟成で原酒成分やオーク材成分が複雑な反応を重ね、ポリフェノール類をはじめとする多様な成分が生成されます。この中には抗アレルギー作用をもつ成分も含まれるそうです


ウイスキーが出来るまで

ウイスキーの原料は、大麦と水と酵母です。まず、大麦を少し発芽(芽を出させる)させます。大麦は発芽することによって、芽が作り出す酵素で大麦自身のでんぷんを糖に変えています。また発芽にともない種々の成長促進物質なども生成されています。

そして、発芽した大麦を水と一緒に粉々に砕き、お粥状にします。この過程で、未反応のでんぷんが麦芽の酵素ですべて糖となります。この糖がいっぱいできたお粥をしぼると、発酵の原料となる麦汁となります。

発酵では、糖と水からアルコールと二酸化炭素が生成されますが、これを行っているのが酵母(パンの発酵につかうイーストと同じ種類の菌)です。酵母は糖がないと発酵の仕事ができないので、でんぷんを甘みを感じられる糖にすることが必要なのです。

余談ですが、ワインや日本酒も、酵母で発酵させて作られます。糖化のプロセスで比べてみると、その違いが良く分かります。日本酒の場合は、でんぷんを「麹菌:こうじきん」で糖に変えていますが、ワインは原料がぶどうなので、糖化の必要はありません。古代が舞台のアニメで、古代の女性が穀物などを噛んだものからお酒を造るシーンがありますが、唾液のアミラーゼででんぷんを糖化するものです。古代アジアでは口噛み酒(くちかみさけ)といって神事用などに使われていたそうです。

発酵

前述の通りウイスキーでは、糖がたっぷり入った麦汁を酵母菌を使って発酵させます。酵母菌は過去数世紀にわたり大変詳しく研究されてきた菌で、その種類は数千種類以上もあります。この数多くの酵母のなかから、良い香りや絶妙な風味を生み出す優秀な酵母菌を選抜して発酵を行います。昔に比べて全てのお酒の風味が格段に良くなったのも、この酵母の改善効果が寄与しています。

また、実は酵母菌以外にも、乳酸菌も使います。乳酸菌は発酵中に乳酸やエステル(フルーティな香り)の産生を促進する酢酸を作り出します。

このようにして、発酵の過程で種々の香りの原料となる物質が数多く生成されるのもウイスキーの発酵の特徴です。

蒸留

発酵の終わった原料中のアルコール濃度は約7%とビール程度です。これを銅製のポットスチルと呼ばれる蒸留器で、アルコール濃度を65%から70%に高めます。アルコールは約80℃で沸騰(気化)するので、気化したアルコールをまた冷やせば高濃度のアルコールとなる訳です。この時にアルコール以外の香り成分も数多く取り出されます。同時に蒸留プロセスでも種々の新しい香り成分が生まれます。

樽熟成

やっと本番の樽熟成です。種々の香り成分の入った原酒が、オーク(樫)で出来た樽に詰められます。樽熟成は短いもので4~6年、長いものでは20年以上も熟成されます。この熟成で、 この「樽熟成」でウイスキー成分やオーク材成分が複雑な反応を重ね、ポリフェノール類をはじめとする多様な成分が生成します。
樽貯蔵中のウイスキー熟成のプロセスをまとめると以下のようになります。

  1. 蒸留過程でできた不要成分(硫黄化合物)の蒸散除去
  2. 原酒由来の成分の反応
    ウイスキーの原酒には非常に多くの成分が含まれています。とくに香りに関与する揮発成分の数はこれまでに調べられたもので 230 種余になります。バラの香りと言われる β- ダマセノンやフルフラールなどの特徴香が作られます。
  3. 樽材由来成分の溶出とその反応
    オーク樽からの精油成分(エッセンシャルオイル)も徐々に溶け出します。100 種類以上が調べられており、オーク材特有のココナッツ様の香りを持つウイスキーラクトンなどがあります。

以上のように、熟成によって複雑な反応を重ね、ポリフェノール類をはじめとする多様な成分が生成されることで、ウイスキー独自の風味を作り出しています。

ウイスキーの中にあった抗アレルギー成分とは

お酒は、含まれるアルコールがアレルギー疾患を悪化させる可能性があるため、アレルギー患者へは避けられるべきものです。しかし、ウイスキーには種々の成分が含まれているので、薬効成分としての抗アレルギー成分の探索が行われました。

サントリーホールディングス(株)のニュースリリースによると、梅やオーク材、ニレ材などに含まれているポリフェノール成分のひとつで、ビタミンEと同等の抗酸化活性を示すことが報告されている「リオニレシノール」や、カエデ属の木に存在する「シリンガアルデヒド」が抗アレルギー成分として見つかったそうです。

ウイスキーには種々の成分が溶け込んでいるので、これ以外の薬効成分もあるかもしれませんね。様々な成分が作り出す風味を感じるためにも、やっぱりウイスキーはゆっくり飲むのがお似合いでしょう。


■参考資料
「ウイスキー中から抗アレルギー成分の構造を決定」
サントリーホールディングス株式会社:ニュースリリース2009年4月
http://www.suntory.co.jp/news/2009/10401.html

「ウイスキーのできるまで:サントリーウイスキー入門」
http://www.suntory.co.jp/whisky/beginner/making/

「酒類の熟成についての一考察(1)」
ウイスキーの熟成機構を参考にして:Sake Utsuwa Research
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