幼き2歳馬たちの新人王決定戦
「朝日杯フューチュリティS」
有馬記念は、3歳以上の“オトナ馬”たちの戦い。一方、12月はまだデビューしたばかりの2歳馬たちによる「新人王決定戦」も行なわれます。それが、G1朝日杯フューチュリティS(芝1600m/阪神競馬場)。2013年までは中山競馬場で行なわれていましたが、2014年から舞台を阪神競馬場に移しています。サラブレッドが目指す大きな目標は、3歳の春~秋にかけて行なわれる「三冠レース」。世代王者を賭けて、3歳同士が3ラウンドで競う戦いです。その前段階として2歳時に行なわれるこのレースは、ひとまず「世代の中心となる馬」を決めるレース。
また、三冠レースは2000m以上の芝コースで行なわれますが、朝日杯フューチュリティSは1600mの短距離戦。そのようなことから、“三冠レースへ向けて”というよりも、未来の短距離王を目指す馬の登竜門となる年も多いです。
先述したオルフェーヴルには、偉大な兄がいました。それが、2006年の朝日杯フューチュリティSを制したドリームジャーニー。3戦2勝でこの舞台に挑んだ若き2歳馬は、スタートで大きく出遅れてしまいます。
しかしドリームジャーニーは、直線で一気に猛追。「ピッチ走法」と呼ばれる、小さな歩幅で回転の速いフォームを駆使しながら、見事に追い込み勝ちを決めるのでした。
2006朝日杯フューチュリティSのレース映像(ドリームジャーニーは黒帽の3番)
ドリームジャーニーは、その後も小さな体でG1を2つ制覇。ピッチ走法の強烈な追い込みは、弟オルフェーヴルに負けず劣らずの印象を残しました。
女王候補の才女たちが集結
「阪神ジュベナイルフィリーズ」
基本的に、サラブレッドは牡馬(オス)が総合力に勝るとされます。そこで牝馬(メス)は、牡馬との混合戦に挑むより「牝馬限定」のレースに回ることが多くなります。先ほどの朝日杯フューチュリティSも牡牝混合のレースですが、基本は牡馬中心。一方、2歳の牝馬は、牝馬限定のG1阪神ジュベナイルフィリーズ(芝1600m/阪神競馬場)に向かいます。
ここを勝った馬は、やはり翌3歳の牝馬三冠戦線における主役になるもの。しかも牝馬三冠の第一弾、G1桜花賞(芝1600m/阪神競馬場)と同じ舞台で行なわれるとあって、重要度も非常に高いです。
このレースでも、のちにG1をいくつも勝つような名牝が駆け抜けていきました。その一頭が、先ほど有馬記念の項で登場したブエナビスタです。
実はブエナビスタ、デビュー戦は3着と黒星スタートでした。しかし、これは仕方ありません。そのレースを勝ったのは、のちに三冠レースの一つであるG1皐月賞(芝2000m/中山競馬場)を制すアンライバルド。2着は、G1日本ダービー(芝2400m/東京競馬場)で2着するリーチザクラウン。未来の名馬たちが、「新馬戦」というデビューの舞台でぶつかった稀有な例なのです。そのためこのレースは、「伝説の新馬戦」として語り継がれています。
デビュー戦で3着に敗れたブエナビスタは、2戦目をきっちりと勝利。そして3戦目にこの舞台を選んできたのでした。レースでは1番人気に推されます。
私は当時、「ブエナビスタの実力は半信半疑だ」と、強気に息巻いていました。「それより今回は、ダノンベルベールが強いんだ!」と、ライバルの1頭を本命にしていた覚えがあります。
そんな前置きを心に留めながら、レースを見て頂きましょう!
2008阪神ジュベナイルフィリーズのレース映像(ブエナビスタはオレンジ帽の13番、ダノンベルベールは白帽の2番)
どうですか、このブエナビスタの強さ。ほとんどムチを入れずに、外から楽々と圧勝。そして、ダノンベルベールを応援していた私の気持ち。ダノンベルベールは、間違いなく申し分ないレースをしているんです。一瞬、先頭に立っているのですから。しかし、喜んだのも束の間。外からサラッと交わしていくんですもの、ブエナビスタが。あのときの脱力感は忘れません。
もしかすると、スタートからブエナビスタ1頭を追いかけてレースを見るより、ダノンベルベールを追いかけてレースを見た方が、ブエナビスタの強さが分かるかもしれません。なおこの才女は、そのあと長きに渡り、日本競馬を引っ張りました。
1年の総決算となる有馬記念、そして新たなスター候補が集う二つの2歳G1。これらのレースで、ぜひとも熱くなってもらえればと思います。
(リンク)
12月のレーシングカレンダー|JRAウェブサイト
2013有馬記念|レースデータ‐netkeiba.com
2006朝日杯フューチュリティS|レースデータ-netkeiba.com
2008阪神ジュベナイルフィリーズ|レースデータ‐netkeiba.com