浦井さんと言えば、明るく華やかで、どこか天然モードの憎めない役柄を演じる機会が多かった印象ですが、『星ノ数ホド』のローランドはおそらく彼にとって”挑戦”ともいえるキャラクター。
蜂という自然のものを相手にするローランドの素朴さや素直さ、もどかしいほどのストレートさを見事に表現する姿がとても新鮮でした。(ほぼノーセットの髪型、ネルシャツのチノパンへのイン、少し猫背にしている姿勢も含め)。こういう”普通の青年”をきっちり誠実に演じられるところも浦井さんの魅力の一つなのでしょう。
(撮影:谷古宇正彦)
ストレートプレイの醍醐味を味わう
もし、この宇宙に今自分が存在しているのとは違う”現実”が無数にあり、そこで違う自分が全く異なる人生を歩んでいるとしたら……。あの時別れてしまった人と一緒にいるのかもしれない。あの日諦めた夢を叶えているのかもしれない。もしかしたら寂れた街でバーのママをやっているのかもしれないし、5人くらい子供を産んで子育てに走り回っているのかもしれない。
それは叶えられなかった人生に対しての希望でもあり、今、自分が呼吸する”現実”と向き合うある種の絶望でもあり……マリアンとローランドの様々な”現実”を客席で観る内に、観客は「人生」という厄介で素敵な代物と改めて向き合おうとしている自分に気付くのです。
(撮影:谷古宇正彦)
マリアンとローランドが繊細に、緻密に紡ぐ台詞と感情のやり取りは日常的でありながら、様々な真実に満ちています。時に笑い、時に胸に刺さった小さな棘を意識し、時に「いま、わたしがここにいること」について考えさせられる。
劇場を出た時に空の星を見上げ、この世界と同時に存在するかもしれない無限の”現実”に思いを馳せながら、深呼吸して自らの日常に帰っていく。人生で一度でも深く立ち止まった経験がある全ての人たちの心の深い部分にしっかり届く物語……『星ノ数ホド』はそんな作品だと思うのです。
星ノ数ホド
作 ニック・ペイン 演出 小川絵梨子
→ 公式HP
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