ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

言葉の力。『物語の生まれる場所』大宮エリーに聞く(3ページ目)

マルチな才能で活躍中の大宮エリーさんが、新しい形のエンタメに挑戦します!音楽とセッションしながら、自ら朗読や即興、漫談をパフォーマンス。「ライブは会場との一体感がいい。観客の皆さんの気持ちが伝わってくる」とエリーさん。一回きり、一夜かぎりでしか聴けないものがたり…体験してみませんか?

三浦 真紀

執筆者:三浦 真紀

ミュージカルガイド

 

私は本を読まず、物語を耳から聴いて育ちました。
それがなかったら、今、文章を書けていないかもしれない

——最近、本が読まれない、長い文章は嫌がられるなど、言葉が置き去りになっていると感じることが多くて。エリーさんはそんな実感ありませんか。
ありますね。大学で授業した時、お寺に千一体の観音様を見に行き、学生達に感想を聞いたら、「すごかったです」と。「どうすごかったの?」と聞くと「どういう意味ですか?」(笑)。「今、心の中に印象として残った物を言葉にしてみて」と、説明するところからはじめました。言葉を信頼しなくなっているのかもしれません。

私は親が共働きで、実は本を読んでもらうことが少なかったんです。その代わり、家には『コージおじさんのお話袋』というレコードがあり、それをずっと聴いていた。石坂浩二さんに朗読してもらっていたわけです。もちろん音楽付きで、中には音楽だけのコーナーもあって。

——その体験が今回のライブにつながっているわけですね。
はい。私は本を読まず、物語を耳から聴いて育ちました。それがなかったら、今、文章を書けていないかもしれない。耳から入る言葉のほうが、割と強いのではないかという気もします。英語でもリスニングが大事と言いますよね。

——確かに、耳で聴いて印象に残る言葉も多いかもしれない。
ただ、本を朗読するだけでは面白くないと思うんですよ。私は朗読を念頭において本を書くので、かなり平易な言葉を選び、読んだり聴いたりしてリズムができる言葉を選ぶようにしています。たとえば宮沢賢治の『やまなし』の一節「クラムボンはわらつたよ」みたいに、耳で聴いて楽しい言葉を心掛けています。日本語は楽しいな、普段の生活でも使いたいなって思ってもらえると嬉しいですね。

昔付き合っていた人と公園を歩いていたら「冬の匂いがする」って言ったんですよ。落ち葉を踏みしめて、立ち上る匂いにさりげなく出たフレーズなんでしょうけど、ああ、いい言葉だな、と思って。もう10年前のことですけど、たった9文字の言葉を今も覚えていますからね。

——言葉を分かち合うことで、どんなことが起きたらいいなと思われますか。

何が起こるとか、そんなおこがましいことは思わないのですけど。ただ、自分が救われた、ラクになった言葉や考え方をお裾分けして、皆さんに幸せな気持ちになってもらえたら嬉しいです。ライブでは友達ができたという方が多いんですよ。おひとりでいらっしゃる方もたくさんいますが、隣の人と話が弾んで友達になったと。そういう空気の方が集まっている気がします。

言葉は誤解もあるし恐い。でも人間は言葉を使う
生き物だから、最終的には言葉を信じたい

——ミュージカルはお好きですか?
ミュージカルは海外でしか観たことがないんですよ。イギリスによく行っていた時期があり、安いチケットで観ましたね。あと映画『サウンド・オブ・ミュージック』や『ウエスト・サイド・ストーリー』など、歌もののストーリーが好きです。いつかミュージカルを作ってみたいなとすごく思いますけど、難しいでしょうね。日本人が作ると唐突にならないか不安で。海外のミュージカルはとても自然じゃないですか。なぜなんでしょうか?

——私は血だと思うんですけどね。そして歴史背景や環境。
日本のお能もある意味、ミュージカルじゃないですか。ああいう感じでもいいかな?と最近、思ったりします。以前、葉加瀬太郎さんに頼まれて、お能の歌詞と脚本を書いたことがありました。それを梅若玄祥さんが謡われて(組曲『JAKMAK』)。お能って譜面がないんですね。笛の方が歌詞だけを見て演奏しているのに驚きました。今回も言葉だけで音楽を演る意味では、やり方としてはお能に近いのな、と。

——言葉の力を信じていらっしゃる?
そうですね。言葉は誤解もありますし、恐いですけど。でも人間は言葉を使う生き物ですから、最終的には言葉を信じたいとも思います。

——今の時点でミュージカルとして、言葉を歌に乗せてしまわないのは理由があるのですか。
うーん。私がシンガーでないことが大きいかもしれません。私は歌詞も書きますが、歌詞になると間引くことが多くなり、物語としては成立しない。詩のようにポエトリーリーディングというより、あくまで物語をお届けしたいんです。

また朗読でないと、私はオペラをやらなきゃいけなくなる(笑)。今の形なら、言葉としてお客さんの中に残るのではないかと思います。
映画を観ている時って、物語もちゃんと入るけど、音楽も自然に入る。後で音楽を聴くと物語や場面を思い出す…そんなことをやりたいんです。音楽も単にBGMでなくて、美術であり照明であり役者さんであってほしい。音楽を止めることでシーンが変わり、音楽を始めるとシーンが始まる。カット変えも、音楽でできるという。

——今回を種に、新しいエンタメを生み出していきたいですか?
そうですね。ミュージカルとして、また役者さんとミュージシャンがやる舞台にしても面白いかもしれない。海外でもやってみたいです。

【公演情報】
『物語の生まれる場所 at 銀河劇場』
2014年12月13日(土) 天王洲 銀河劇場

宣材写真

本公演のチラシ。



【編集部おすすめの購入サイト】
Amazonでミュージカル関連の商品をチェック!楽天市場でミュージカル関連の商品をチェック!
  • 前のページへ
  • 1
  • 2
  • 3
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます