ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

気になる新星インタビューvol.9 上原理生(4ページ目)

11年の『レ・ミゼラブル』で彗星のように現れ、「あのアンジョルラス役は誰?」と騒然とさせた上原理生さん。東京藝大出身、力強く深みのあるバリトン・ボイスを生かし、以降も『ミス・サイゴン』等着々とキャリアを重ねていますが、最新作『ヴェローナのニ紳士』では誰もが唖然とするような役どころに挑戦。楽しげに新境地を開拓中の彼を訪ねました。*観劇レポートを掲載しました!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド


初挑戦のオーディションで『レ・ミゼラブル』に合格

『レ・ミゼラブル』写真提供:東宝演劇部

『レ・ミゼラブル』写真提供:東宝演劇部

――卒業されてミュージカル俳優になった経緯は?

「最初は大学院に行ってクラシックを極めようと思っていたんです。けれどかなり門が狭く、クラシック音楽で生きていくことの厳しさを感じて、学生のころにやっていたミュージカルの楽しさを思い出したのと、クラシックの歌曲やオペラアリアを歌う時に言語や体格の面で日本人の不利な部分を感じていて、そこまでして日本人が原語でやり続ける理由はなんだろうと考えていたんです。

ミュージカルなら日本語だから自分たちも楽しいし、お客さんも舞台上で起こることやキャラクターの感情がダイレクトにわかるからカーテンコールでのリアクションがクラシックとは全く違う。やっぱりミュージカルをやりたいな、と思い始めたころに、『レ・ミゼラブル』のオーディションの情報をいただいて、受けてみたらアンジョルラス役をやらせていただけることになったんです」

――プロとしての初ミュージカル、いかがでしたか?

「初めてのことばかりで、大変でしたが、楽しかったです。音楽稽古にしてもものすごく音楽に忠実に稽古してくださって、“このメロディはこういう感情が表されているからこういうふうに歌ってほしい”とか、大学に戻って授業を受けているような感覚で”すごい!“と思いました。”これができるなんて本当に楽しい”と思っていたら、次にそれにお芝居をつけていく稽古になって。

音楽からのアプローチだけでなく、台本を読んで“今いったいどういう気持ちでこの台詞を言っているのか”ということを考えるようになり、すごく新鮮でした。いっぱい勉強させていただきながら、心がわくわくしてきて”もっともっできるようにならなきゃ“と思いながら取り組んでいました」

“静かなる男”アンジョルラス


――アンジョルラスは上原さんにとってはどんな人物ですか?
『レ・ミゼラブル』写真提供:東宝演劇部

『レ・ミゼラブル』写真提供:東宝演劇部

「原作を改めて読み返してみると、”静かな男“なんですよね。周りのみんなが”今この国を変えなくちゃいけないんだ“と論争をしているなかで、ずっと考えながらみんなの意見を聞き、”よし、こうしよう“と言ってみんなをまとめあげる。そういう男なのかな、と思います。

内に秘めている想いはすごく熱くて、誰よりも国や人のことを考えている。人間が生きる世の中はこうでなければいけない、真の平和とはこういうものだ、というものがある人なのかな。それがリーダーシップというものに繋がるのかな……と思っていました。すごく謹厳でストイック、司教のようにみんなを導いて諭す、包むという面があると同時に、戦士の面もあって、戦う男には敬意を払うという、そういう男なのかな、と。表面的な”熱い男”、ではないですね」

――新演出では変化はありましたでしょうか?

「それまではどちらかというと神々しく描かれていたアンジョルラスが、一人間として生々しく、普通の人間として描かれるようになったかな。巌(いわお)のようにどんとしながらも、自分の中に理想も、戦う気持ちもあって動いていく男ですね。でも音楽稽古の時に映画版と同じ音楽監督のブルッカーに見てもらって、”もっとこういう風に歌ってほしい“という注文を受けて歌ってみたら、もともと自分の中にあるアンジョルラスの歌い方だったんです。“それがアンジョルラスだ”と言ってもらって、”あ、これでいいのか“と。根っこの部分は変わっていないんだという再発見がありました」

――人間像は変わっていないけれど、その見せ方が変わったという感じでしょうか。

「そうなのかなと思いました」

――その“生々しさ”という方向性から、論議を呼んだあの荷台での最期のシーンが生まれたのかもしれないですね。

「あれは無情観がいいんだろうなと思います。国を想って信念を持って戦った学生たちが、権力の前では無力で楽々と倒されてしまって、あんなに理想を掲げて走っていたのに、死んでしまったら一個の死体として処理されてしまうという無情さ。それを(新演出版の演出家)ローレンスは描きたかったのかなあと思います。アンジョルラスは神格化される男じゃなくて、革命を起こした人物だけど政府から見ればテロリストである、ということを描きたかったのかもしれません」

――来年の再演でもこの役を演じられるということで、楽しみです。

「僕も楽しみです」

“もがきながらも幸福を求める人間”の姿に触れたい


――『レ・ミゼラブル』以外にも、『ロミオ&ジュリエット』のティボルト、『ミス・サイゴン』のジョン、『ちぬの誓い』の獅子丸など、上原さんは順調にキャリアを積み重ねていらっしゃいます。今後はどんな表現者をめざしていらっしゃいますか?
『ミス・サイゴン』undefined写真提供:東宝演劇部

『ミス・サイゴン』 写真提供:東宝演劇部

「そうですね。もちろん自分の武器は歌ですので、それは磨き続けつつも、もっと人間の本質を表現できるような、芝居をする人にならないといけないなという思いがあります。それがあった上で歌があるという人になりたいですね。歌以外のところからも訴えかけることができる役者が目標です。

そのために、ストレートプレイがやってみたいですね。シェイクスピアの芝居は特に好きで、個人的にもよく観ているんですよ。『タイタス・アンドロニカス』ですとか。この前もシェイクスピアの『コリオレイナス』を読んでいて、すごく心が動かされるところがたくさんありました。人間のどろどろしている部分や人間臭い部分が描かれている作品で、”不器用な男だな“と思ったりするんですけど、その不器用さが実は人間ぽくて、自分は信念にのっとって動いているだけなのに周りからは傲慢と言われてしまったり、やっかまれたり。それは現実世界には本当によくあることで、その中でもがいているのが人間なんですよね。

今回の『ヴェローナのニ紳士』も、きっとそうなんですよね。その人その人で状況は違うけれど、それぞれにもがいている。一生懸命に、幸せに生きようとする人たちの姿に触れたいと思いますし、自分もそういう姿を表現してゆけたら……と思っています」

*****
朗らかに話しつつも、時折そのボキャブラリーや視点から、読書家の片鱗がうかがえる上原さん。声質だけでなく人物像的にもぴったりだった「静かなる男」アンジョルラス役を出発点に、果てしなく豊饒な表現者の世界に足を踏み入れた彼は、今後どんな成長を遂げてゆくのでしょうか。まずは今回の「とんでもない役」(と強調していますが、曲者キャラクター揃いの『ヴェローナのニ紳士』の中でも、本当にこのエグラモーは別格!)で、従来のイメージを打ち破ってくれる(であろう)彼に、注目しましょう!

*公演情報*『ヴェローナのニ紳士
2014年12月7~28日=日生劇場、2015年1月10~12日=キャナルシティ劇場、1月17~18日=愛知県芸術劇場大ホール、1月23~25日=梅田芸術劇場大ホール

*次ページに観劇レポートを掲載しています!*
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