強烈すぎる?!キャラクター、エグラモー
ヴェローナの二紳士
「僕もシェイクスピアの原作を読んで“こういう男なんだ”と理解したうえで台本を読んだら、“あれ、ちょっと違うぞ”……と(笑)。原作だと、ミラノでは評判の紳士で、眉目秀麗で勇敢で義理堅い男で、奥さんがいたのだけど亡くなってしまって、その墓の前で生涯独身を貫くと誓っている男で。それがミュージカルになると、霧矢大夢さん演じるシルヴィアと恋仲になったのが彼女のお父さんにばれて戦地に送られてしまう。そしてまた舞い戻ってシルヴィアと恋の逃避行をする……という設定なのですが。
亜門さんはこの”戦地“の設定をどこにしよう……とずっと迷われていたんです。僕の顔を見て、中東方面の設定になりました(笑)。まだ今後の稽古で変わってゆくかもしれませんけれど」
――台本にはエグラモーさんは”魔法アイテム“をお持ちだとも書いてありました。
「そうなんですよ。ランプをこすると何かが起きるとか……。ジーニーみたいですね(笑)」
――こういうお役をどうして上原さんにあてたのか、が非常に興味深いです。
「ブロードウェイ版ではこの役だけ中国系の方が演じていて、非常にインパクトの強い役だったらしいんですね。プロデューサーに聞いた話では、エグラモーはいったい誰がやったらいいだろうと話していて、“あ、上原君が濃くてぴったりだ”という話になったらしいです。それで亜門さんも僕の舞台を見て下さって、“じゃあこの人に”ということになったと。台本には“ぞっとするようなバリトンの声を響かせながら登場する”とあって、いざ登場するとシルヴィアとの束の間の逢瀬を楽しみ、そのあとは戦いが起こってあっという間に……という、出番は短い役なんですが、インパクトはものすごいものがあります」
――出番は短いながらも、エグラモーさんがトラブルを起こすことで、勝手放題でまとまらなかった人間関係が「雨降って地固まる」的にまとまっていくことを考えると、とても重要な役どころかもしれませんね。
「そうかもしれないですね。でもエグラモーだけは別の方向に行ってしまって……。最後に、みんなで”人を愛するって素晴らしい“といった内容の歌を歌うことになっているので、そこに彼も参加できるといいなあとは思っています」
“濃厚でエロティック”なナンバーで魅了?!
――ちなみにエグラモーのソロ・ナンバーはどんな曲調でしょうか?
「シルヴィアと愛を囁きあうスローなバラードなんですが、皆さんがポップに歌われるので、亜門さんからは”一人、オペラチックに朗々と歌って、かましてください“と言われています。そういうところでも全然違う歌い方をしてインパクトを、という狙いがあるみたいですね(笑)。ちょっと暗めで濃厚で、ねっとりというか、静かなところで燃え上がっているような音楽です」
――『オペラ座の怪人』の「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」みたいな感じですか?
「それともまたちょっと違うかな。派手ではないけど、エグラモーとシルヴィアの熱が絡み合っていくような、ちょっとエロティックな音楽です。張り上げたりというものではないのですが、濃厚です」
――お聞きするのが楽しみです。ポップス、ロックのご出身の出演者が多い中で、おひとりだけ声楽ご出身であるわけですが、どんな違いを感じますか?
「新たな刺激をいただいています。稽古ではこれまで出演してきた作品とはまた違うリベラルな雰囲気というか、違った感性が溢れていて、面白いです。だからこそ亜門さんに”オペラチックに朗々と“とリクエストされたのがよくわかります。
逆に今まで自分が培ってきたもので最大限に勝負するのが面白い挑戦だなと思います。ポップスご出身の方々は、感情の乗せ方がストレートというか、歌でストレートに思いを乗せて歌われていますね。そこからお芝居にうまくスライドしてやっていく感じだと思います。自分がこれまで携わってきた舞台はどちらかというとお芝居から入って歌をどう、というアプローチが多かったのかもと思えて、今回どういう完成型になるのか僕も楽しみです」
――どんな舞台になりそうでしょうか?
「楽しいですよ。この前、序盤の、西川貴教さん演じるプロテュースが島袋寛子さん演じるジュリアに恋文を渡すシーンをやっていたんですが、ジュリアにものの見事に破り捨てられて彼が“ひどいひどい~”と嘆いていると、恋のキューピッドが羽ばたいて登場しながら、ジュリアの胸にぷすっと矢を放つんですね。その瞬間に恋が芽生えて”誰がこの手紙破ったの?やだ、あたし?”と言いながら返事を書いて、それを受け取ったプロテュースが”やったあ!“という喜びのシーンがあって、初恋のドキドキ感がとてもリアルに表現されていました。
ドキドキ有り、嫉妬あり、自由を渇望したり、といろんな感情が溢れた人間らしい芝居になるのかな、と思います。お客さんの感情もあちらこちらに振り回されて、楽しいんじゃないかなあ」
*次ページで上原さんの「これまで」をうかがいました。少年時代に好きだったのはクラシックでなく、意外にも「あの」バンドだったのだそう!*