『ファースト・デート』観劇レポート
「始めてみること」が素敵に見える
“芸達者たち”のリアルな「出会い」劇
『ファースト・デート』写真提供:東宝演劇部
東京なら青山あたりにありそうなお洒落なバー&レストランで展開する、一組の男女のブラインド・デート。それぞれ肉親や同僚に勧められて出かけてみたものの、第一印象は「無いわ、この人との恋愛」。性格もノリも違い、気まずい「間」まで生じる始末だけれど、そこは大人。どうにか会話を繋げてゆく二人に果たして「次」はあるのか、無いのか?
「ブラインド・デート」という名称ではないにしても、例えばネットで出会った二人の初デートという形なら、日本でもこうしたデートは「よくある光景」となってきたのではないでしょうか。ネットやメール上では相性がよく思えても、実際に会ってみたら「何かが違う」とがっかりしたり、逆に「こういう面がある人なんだ!」と気分が盛り上がったり。そんな「感情の大揺れ」をコントロールしながら、初対面の異性とのひとときをどう創っていくか。そんな極めて現代的なシチュエーションを描きながら、「何事も、始めてみること、トライしてみることが大事」と人生論的な示唆にも富んだ作品が本作です。
『ファースト・デート』写真提供:東宝演劇部
テレビドラマよろしく、ただ男女がバーで会話をしているだけではつまらない、とばかりに本作が活用しているのが、「妄想」シーン。例えば男(アーロン)が、相手が同じユダヤ人ではないと知り愕然とすると、ウェイターや店内の他の客に扮していた俳優たちがユダヤ人の親戚たちに早変わりし、「彼女はダメだ~」と大仰に謳う。女(ケイシー)が昔の彼氏たちを思い出すシーンでは、再び客の男性2名がいかにも「ワルそうだけどセクシー」な男に扮し、彼女を誘惑しようとする……といった具合です。多彩なナンバーに彩られつつ、舞台が描く世界が妄想によって膨らんでは元に戻り、を繰り返しながら、アーロンとケイシーの本心に迫って行く、という構造が効果的です。
『ファースト・デート』写真提供:東宝演劇部
ごく日常的なモチーフゆえ、舞台は役者の「こなれた演技」が命ですが、今回はよくぞ揃った!というべき、充実のキャスティング。アーロン役の中川晃教さんは、仕事ではそこそこ成功していながら、過去の失恋ダメージが克服できていないため、どこかアンバランスでぎこちない青年をナチュラルに表現。もしプライベートが好転して自信が蘇ったら、このタイプはきっとすこぶる「いい男」に変わっていくのだろう、と想像させます。いっぽう、ケイシー役の新妻聖子さんはパンク・ロックミュージシャンさながらのハードな扮装で登場し、アーロンに容赦ない言葉を連発する様も迫力満点ですが、後半に歌い上げる「Safer」で、傷つくことを恐れるあまり、恋に踏み切れない女心を吐露。本当はかわいい部分もあるのかもしれない(?)ヒロインを、のびのびと演じています。
『ファースト・デート』写真提供:東宝演劇部
この二人を取り巻く人々を演じるのが、藤岡正明さん、未来優希さん、昆夏美さん、古川雄大さん、そして今井清隆さん。持ち味の全く異なる実力派たちが瞬時に「レストランの客」「ウェイター」から「おばあちゃん」「元彼女」「ゲイの友人」等々に変身し、楽しげに演じることで、本作の「現在」と「妄想」シーンを往来する趣向がいちだんと面白く見えてきます。特にウェイター役の今井さん、人生経験豊富オーラで芝居をしっかり引き締めつつ、最後の「仕掛け」でお茶目な側面がぽろり。作品を「粋」に仕上げています。
『ファースト・デート』写真提供:東宝演劇部
アーロンとケイシーのファースト・デートの結果はご想像にお任せしますが、まだご覧になっていない方に一つだけヒント。「デート」に行きたくなるのはもちろん、きっと何か、新しいことに挑戦したくなる作品です。