単なる記号としての”草食系男子”ではなく、
一人の人間の機微を描き出したい
『ファースト・デート』アーロン役 中川晃教さん 写真提供:東宝演劇部
「全然しないですね(笑)」
――みなさん、そういったことはもう通り抜けた、大人の方々なのでしょうか(笑)。
「どうなんでしょうね。他のみなさんはしてるかもしれないけど、僕自身はあまりそんな話をしないタイプなので……わからないです(笑)」
――演じるアーロン役で、気に入っていらっしゃる部分は?
「誠実なキャラクターですね」
――彼はとても“いい人”なのに、なぜそれまでご縁が無かったのでしょう。
「“いい人”なだけじゃダメなんじゃないですか?男として(笑)。アメリカではどういう男がモテるのか、というのは僕もよくわからないけど、こういう男をもらえば女性は幸せになれるのに、と思います。人生設計をきちんとたてて目標をもって仕事をしているし、“いい子がいるから会ってみなよ”と知人に勧められれば断らずに“いいよ”と言うだけの社交性もある。彼のデートの場所選びから推測すると、経済的な面を含めてゆとりのある人物かなとも思うんですよね。
でも、女性としてはそれだけでは物足りない、のでしょう? 男として色気がない、というか。“ひゃっ、あなたにはそんな面が”と思わせるようなものがあると女性はぐっとくる、というようなことを宝塚の元・男役の未来(優希)さんからうかがったりしています。本作でアーロンが出会うケイシーは歯に衣着せぬキャラクターなのですが、今回、新妻聖子さんが演じることでそれがさらに誇張されているというか、稽古していると彼女の言葉が実に胸に突き刺さってくる(笑)。この作品で、アーロンを通して、僕も恋愛を学ばせていただいているという感じかな。女性はこういうふうに思うんだ、そういう感情になるんだということを、社会人としては自信を持っているのにプライベートとなるとケイシーに振り回されるアーロンを演じながら、面白く学ばせていただいています」
――アーロンはそれまで、それほど必死には恋愛を求めてなかったのかも?
「求めてはいたんじゃないかな。ただ、彼には結婚式の当日に婚約者に逃げられたという過去があって、大きな傷になっているんです。僕だって、もしそんな経験をしたら、ただでさえ女性の心が分らないと思う瞬間が日常でたくさんあるのに……もう永遠に女性が分らなくなると想像してしまいます(笑)。
根底の部分では、男と女って全然違うじゃないですか。さらに、最近の若い男女の感覚も違うと思います。その“最近”に僕がくくられるのか、ちょっと前なのか……、その辺も定かではないんですけど。
アーロンはいわゆる“草食系男子”に分類されていて、そういう“時代の象徴”としてこのキャラクターを面白がることもできますが、演じる僕としては、(記号ではなく)もう少し、一人の人間としての機微も伝えられたらと思っています。例えば彼はケイシーに対して、第一印象として自分のタイプではないけれど、そこにはこだわらない。僕もそういうところがあって、“この人、こういう人かな”と第一印象にとらわれるとそれはだいたい外れるから(笑)、意図的に“逆かもしれない”と思うようにしていますね。
アーロンも、ケイシーはタイプではなくても、それよりその時間を進めて、会話を盛り上げていこうと努力します。そういうところからも、社交的で誠実な人間なんだということが分かりますよね。そして、デートを通して“ちょっとこの人を知ることが出来た。自信はないけど、いい人だと思えた”というところに到達する。その過程をいかにコメディとして、テンポよく見せてゆけるか。そんなことを今は考えているところです」
*次ページでは中川さんがミュージカルの世界に入られたきっかけ、初舞台の思い出、そして今後の夢を語っていただきました!*