「オータム・イン・ニューヨーク」デクスター・ゴードン「ダディ・プレイス・ザ・ホーン」より1955年
ここは1950年代、フランスはパリの一角。ジャズ・ライブハウス、ブルーノート・クラブの裏手で、座りながらサックスを吹くアメリカ人のテナーサックス奏者デイル(デクスター・ゴードン)。その彼が、吹いていた曲を途中でやめ「フランシス、歌詞を忘れてしまったから続きが吹けない」と言いました。
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フランシスに歌詞を教えてもらい、ようやくデイルはこの曲を演奏することができるようになります。
この場面に代表されるように、この「ラウンド・ミッドナイト」では、ジャズメンのデクスター・ゴードンがほとんど素のままで、ジャズサックス奏者を演じ、アカデミー賞の候補にまでなりました。
そして、この曲「オータム・イン・ニューヨーク」ほど、デクスターに似合うバラードはありません。
これから来る、厳しいニューヨークの冬。その前の一時。誰もがほっとする時期。恋の始まりへの期待を歌ったこの曲は、1934年ロシア人のヴァーノン・デュークによってつくられました。その男くさい骨太のメロディが、デクスターのややぶっきらぼうなテナーの音色にピッタリなのです。
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ダディ・プレイズ・ザ・ホーン
この「ダディ・プレイス・ザ・ホーン」は、その悪いコンディションの中、1955年に吹き込まれたデクスター久々の会心の一枚です。この後、またデクスターの活躍は1960年代になるまで待たなくてはならなくなります。
そしてここでの「オータム・イン・ニューヨーク」の演奏は、デクスター本人のつらく厳しい50年代にあって、ニューヨークにおける秋のようなホッとする演奏になっています。
あえて感情は抑えた、男泣きのサックスに、この時代のデクスターの心情が反映されているかのようです。そして、60年代に入り、デクスターは名門ブルーノート・レーベルで華々しく復活することになります。
もしかしたら、この曲は、淋しい時代を支えてくれたデクスターの心の糧だったのかもしれません。
今回の、秋の日のジャズ、いかがでしたか? 秋は、物事を深く考える時期でもあります。たまには珈琲を片手に秋の日にピッタリのジャズを聴きながら、物思いにふけるのも一興かもしれません。また、次回お会いしましょう!
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