寂れかけていた江戸時代の観光地が
副都心線開業で賑やかに

鬼子母神

境内には名物の団子を売る店や気性の荒い猫のいる駄菓子屋などがあり、演劇やイベントに使われることも(クリックで拡大)

雑司が谷(豊島区)は池袋駅東口から南へ数百m、目白駅からもほぼ同じくらいの距離と都心にありながら、池袋の喧騒とは全く異なる、歴史ある雰囲気を残す街です。

街の象徴は室町時代に出土した鬼子母神像を祭った鬼子母神堂。お堂が建てられたのが安土桃山時代といわれ、現在の本殿は徳川4代将軍の代に建立されたもので、豊島区では最古の建造物です。鬼子母神は安産、子育ての神様とされたため、広く庶民の信仰の対象となり、江戸時代には参道両側に茗荷屋、蝶屋、武蔵屋などといった料理茶屋が並ぶ一大観光地だったとか。歌川広重の浮世絵にも往時の賑わいが描かれています。

 

鬼子母神前

都電の最寄駅は鬼子母神前。東池袋との間に雑司ヶ谷駅がある(クリックで拡大)

その後、副都心線開業の平成20年前後までの雑司が谷は静かではありましたが、活気のない街でした。戦災を免れたため、古い街並み、路地などは残っていましたが、それがために防災面で難もあり、開発が遅れていましたし、都電荒川線(東京メトロ副都心線の最寄りは鬼子母神前駅)しか利用できない地域だったためもあります。

私は学生時代、鬼子母神前から2駅池袋寄りの東池袋四丁目駅から早稲田駅までを通学に利用していたため、時々途中下車しては歩いていたものですが、率直なところ、寂れた雰囲気が漂っていたように思います。ちなみに元々の町名は雑司ヶ谷で、都電の駅は雑司ヶ谷のままですが、現在の町名は雑司が谷となっており、副都心線の駅も雑司が谷。ややこしいことです。

 

手創り市

手創り市では衣類、バッグ、帽子やポストカード、ボタンなどとにかく手作りの品がたくさん並ぶ。最近は人気で出品するのも大変らしい(クリックで拡大)

それが変わりだしたのは副都心線開業の2~3年前から。平成18年には現在も月に一度、鬼子母神と大鳥神社を舞台に開かれている手創り市がスタート。同じくらいの時期に早稲田、目白、雑司が谷で本に関する仕事をしている人間のグループ「わめぞ(それぞれの地名の頭文字を取ったもの)」が産声を上げます。

わめぞは副都心線開業以降、地元の鬼子母神通り商店睦会と一緒に2ヶ月に1度、みちくさ市なるイベントを開いており、この2つの市が同時に行われる日には街は若い人で溢れんばかり。高齢者と猫の多いこの街が少しずつ変わってきていることを感じさせます。

 

雑司が谷案内処

樹齢400年のケヤキ並木の中にある区の案内所。元々はもっと古ぼけた感じの建物だったが耐震補強に加え、外装にも手が入り、しゃれた雰囲気に。裏手には手塚治虫が居住した並木ハウスがある(クリックで拡大)

また、区も平成22年にケヤキ並木の中ほどにある昭和初期に建てられたという建物の一画に雑司が谷案内処を開き、観光に力を入れています。さらに大きな話題は都電荒川線雑司ヶ谷駅とお隣の東池袋四丁目駅の間に区役所が移転してくることでしょう。現在、建設が進んでおり、平成27年5月7日が完成予定。それを見越してか、都電荒川線沿いの池袋に近いエリアではマンションの建設、建替えなどが相次いでおり、いずれ雑司が谷界隈にも変化が生じてくるはずです。

 

都電荒川線を挟んで東西で異なる雰囲気
傾斜地も多数

東京音楽大学

雑司が谷からあるいは鬼子母神前、池袋から歩ける距離にある東京音楽大学。楽器を抱えている人も多い(クリックで拡大)

では、現在の雑司が谷の様子を都電荒川線を挟んで西側、東側それぞれで見ていきましょう。まずは鬼子母神のある西側、雑司が谷三丁目。ここは同一丁目、二丁目に比べると比較的平坦な場所で、鬼子母神のほか、法明寺、本納寺、大鳥神社などの境内の広い寺社があり、東京音楽大学があることもあって若い人が目につきます。

池袋駅近くから延びる商店街や鬼子母神の背後にある商店街などもあり、利便性も高いエリアです。とはいえ、寺社、大学以外はほとんどがあまり規模の大きくない一戸建て、低層の集合住宅を中心にした住宅街で至って静か。

 

夏目漱石の墓所

夏目漱石の墓所。古い墓地だけあり、意匠を凝らした立派な墓も多く、日当たりが良いためか、明るい雰囲気(クリックで拡大)

次に西側。ここは北側に広大な都立雑司ヶ谷霊園がありますが、住所は南池袋。以前の雑司が谷は七丁目まであったものの縮小されたためで、都電雑司ヶ谷駅も同じく南池袋に立地しています。明治5年に開設されたこの霊園には著名人の墓が数多くあり、夏目漱石をはじめ、小泉八雲、泉鏡花、永井荷風、島村抱月等の作家からジョン万次郎、開明派の幕臣小栗上野介忠順、竹久夢二、詩人サトウハチローなどなど。園内の地図には著名人の墓地の場所が記載されており、墓巡りをする人も少なくありません。

 

旧宣教師館

明治40年に建設されたそうで、カーペンターゴシック様式と言うそうだ。館内は無料で見学できるが、撮影は不可(クリックで拡大)

雑司ヶ谷霊園の南側にあるのが雑司が谷一丁目ですが、ここは霊園から一丁目と二丁目の境となっている弦巻通りに向けて下り坂となっており、ところどころには急な坂、崖もあります。雑司ヶ谷霊園のすぐ近くには明治時代に建てられた、区内最古の木造洋風建築である雑司が谷旧宣教師館があり、なかなか良い雰囲気。このエリアはコンパクトな一戸建てが中心で庶民的な雰囲気です。

 

料亭寛

三角寛の旧宅を利用した料亭。店構え同様、お値段のほうも立派(クリックで拡大)

坂を下り、弦巻通りまで来ると傾斜地の上のあたりや、通り沿いには大きなお屋敷やマンションなどもあり、いささか違う雰囲気に。通り沿いには小説家菊池寛や詩人三角寛の旧宅跡や品揃えが圧巻な魚屋さんもあります。この辺りは文京区との境でもあり、隣接するのはお屋敷なども多い目白台になります。

 

弦巻通り商店街

レトロな雰囲気の商店街だが、以前に比べると店が減り、マンションなどに建て替わっている(クリックで拡大)

弦巻通りはかつて弦巻川という川があった場所で、一部には八百屋さん、肉屋さんなどが並ぶ商店街が。どの店もレトロな雰囲気で、一部しか営業はしていないものの、昔風のマーケットなどもあります。このエリアには目白通りまでいかないとスーパーがないため、古くからの商店街も健在なのでしょう。

 
猫

日本女子大寮の守衛所の前でまどろんでいた猫。いじめる人がいないのか、どの猫ものんびり昼寝していた。羨ましい(クリックで拡大)

さて、歩いてみて目につくのは猫。とにかく猫が多く、おそらく谷中などに匹敵するほど。考えてみると、谷中にも大きな墓地があり、ここにも雑司ヶ谷霊園が。猫と墓地は仲良しなのかもしれません。

 
ジャングルブックス

古本と占いが売りのジャングルブックス。その他、特徴のある古書店が点在している(クリックで拡大)

また、古書店も目についたところ。前述した鬼子母神周辺のイベントでも本はキーワードになっており、お好きな人なら、池袋も含めたこのエリアの古書店巡りは個性的な店舗が多くてお勧めです。もうひとつ、多かったのがコインランドリー。洗濯機置き場のないような古いアパートが多いためと推察されます。

 
最後に東京メトロ副都心線雑司が谷駅周辺の住宅事情を見ていきましょう。