演歌・歌謡曲/昭和の名曲コラム

村下孝蔵の『初恋』は童貞たちのレクイエム(2ページ目)

立呑屋でぼんやりテレビを観ていたら、村下孝蔵のヒット曲『初恋』について扱った番組が始まった。ふと気がつけば店内にいた十数人の、おそらく50代、60代の男性客がみな一様にテレビ画面のとりこになっていた。なぜ『初恋』はかように男たちの心をとらえるのか。中将タカノリが独自の視点で斬る歌謡曲コラム。

中将 タカノリ

執筆者:中将 タカノリ

演歌・歌謡曲ガイド

プロデューサー・須藤晃の影響

実際、村下はこの曲に自らの初恋の実体験を盛り込んでいる。

テニス部のトレーニングでグラウンドを走る彼女を見ているだけだった自分、引っ越してゆく彼女に一言もかけられなかった自分……。

情けなく、格好良くない等身大の青春の一風景。

村下のプロデューサーを務めていた須藤晃は

「僕は村下さんと格好悪いものを目指していたんですよ。今さら言う必要ないようなことを歌にしたんですよ。みんなの心の中にあって、みんながあえて言わないようなことを歌にしたんですよ」

と語っている。

須藤は同時期、村下以外にも尾崎豊や浜田省吾、1990年代には玉置浩二のプロデュースを手がけた、独特の……少しこっぱずかしい方向にアーティストを自己解放させる手腕にたけた人物。
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「盗んだバイクで走りだす~♪」(尾崎豊『15の夜』)なんて歌詞を人に歌わせてしまうのだから、村下に対しても同じ傾向の圧力をかけていたのだろう。

デビュー前後の村下の歌詞はいたって平凡な年なりの恋愛について描かれていることから、『初恋』における"童貞臭い妄想"を“お耽美”にすり替えるメソッドはおそらく須藤の主導のもとで引き出されたものなのだろうと想像できる。

あぁ初恋の後ろめたさよ

リリースから十数年を経て……村下がテレビスタジオで『初恋』を演奏中、本当に初恋の人が登場するというドッキリ企画があった。

どうにか歌い終えたものの「もう僕震えてますよ!」と顔をひきつらせる村下。

この時村下は、歌に秘めた思春期の種々の感情を見透かされたように感じ、震えるほどの後ろめたさに襲われていたのではないだろうか。

初恋は甘く、恥ずかしい。
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