『コンタクト』
11月16日~12月7日=自由劇場『コンタクト』
1999年にオフ・ブロードウェイ、翌年ブロードウェイで開幕し、最優秀作品賞、振付賞を含む4部門を受賞した『コンタクト』。従来のミュージカルではありえなかった「歌わない」舞台ながら、「ダンス・プレイ」という名目でミュージカルの一分野として認識された、エポックメイキングな作品です。
3つのストーリーからなるオムニバス形式の本作では、フラゴナールの名画に想を得た男女3人の無邪気な愛の戯れ、1954年のニューヨークを舞台とした、横暴な夫を持つ女の切ない白昼夢、そして現代のニューヨークで生きる気力を失った広告マンの幻想が展開。それぞれに共通するのは、人は人との関係性なしでは生きていけないという“コンタクト(触れ合い)願望”です。当時すでに『クレイジー・フォー・ユー』で振付家としての名声を得ていたスーザン・ストローマンにとって、演出も手掛けた初の作品。シーンごとにがらりと変わるダンスを生き生きと踊りこなすキャストにも注目です。
『コンタクト』パート3 撮影:山之上雅信
パート1「swinging」は18世紀ヨーロッパの屋外で繰り広げられる、男女3人の恋の遊戯がテーマ。「恋人たち」を演じる男女の仲が次第にエスカレートしてゆくことが、ブランコ上の女性の振付で大胆に描かれ、それを受けて松島勇気さん演じる召使がいらいらを募らせてゆく様子が言葉のない世界で明確に表現。貴婦人役の相馬杏奈さんは躍動感に溢れ、貴族役のツェザリ・モゼレフスキーさんがいかにも優雅な物腰を見せることで、最後のどんでん返しが鮮やかなものに。
『コンタクト』パート2 撮影:下坂敦俊
『コンタクト』パート3 撮影:山之上雅信
このバーのシーンで気づかされるのが、パート1で恋人たちを演じたモゼレフスキーさんと相馬さんがカップルとして踊っていること。一見それぞれ独立したパート1,2,3の関連性が思い起こされ、人間が「人とのつながり」無しでは生きてはいけないこと、そして時代が下るにつれその機会が失われ、テクノロジーの発展によって逆に人間が「つながりの喪失」の危機にあることを痛感させられます。99年の本作発表時より遥かにネットが普及し、SNSだけで「人とつながっている」と錯覚することも容易な今。この瞬間を生きる私たちが身につまされずにはいられない、深い感慨を与える舞台となっています。
*次ページで『マザー・テレサ 愛のうた』以降の作品をご紹介します!