悪い子は『おおかみのでんわ』でおしおき!?
登場人物の「ぼく」が言うことを聞かないと、すぐに電話をかけて「もしもし おおかみさん! わるいこがいます。すぐつれてってください」とおおかみを呼ぶ「おかあさん」。おおかみに怖いイメージを持っているぼくは、たまらず泣きながら謝ります。どうやら、お友だちみんなの家でも、同じらしいのです。「悪い子のところには〇〇が来るよ!」。何度注意しても言うことを聞かないお子さんに、こんなセリフを言ったことはありますか!? 脅しって根本的な解決にはならないですし、いつか脅しは効かなくなるときが来るものですが、つい言ってしまうこともありますよね。
でもこの『おおかみのでんわ』は、「脅しでお子さんに言うことを聞かせようとするのはやめましょう」などという教訓じめいたものは一切ありません。忙しい毎日に奮闘する人間とおおかみのおかあさんの様子、ぼくとおおかみの子の心の交流を、ユーモアいっぱいに描いた絵本です。
人間のおおかみの子どもたちが知ったある事実
いつもおおかみを恐れていたぼくですが、ある日、おおかみの子と出会うことになったのです(その出会い方にもまた、度肝を抜かれます)。出会い直後のちょっとした騒動を乗り越えて仲良くなった2人がそれぞれのお母さんの話をし出すのですが、そうしたら、どちらにとってもちょっと驚きの事実が判明したのです。ぼくはおおかみが怖くて仕方ないと思っていたのに、おおかみの世界でもおかあさんが子どもに同じことを言っていたなんて……。そして、おおかみの子によると、人間同様、おおかみのおかあさんとおとうさんも日々忙しいよう。汗をかきながら毎日の生活を回しているおおかみのおかあさんとおとうさんの様子には、親近感さえわいてきます。そんなお互いの親の存在はさておき、ぼくとおおかみの子はさらに仲良くなり、ぼくはおおかみの国へ連れられていき、おおかみの子どもたちと遊ぶことに! あれ、これってぼくのおかあさんにとっては厄介な展開ですよね!? 怖がっていた存在と仲良くなってしまうのですから……。
ちょっぴりこわくて面白い、せなけいこさんの絵本の世界
せなけいこさんの絵本は、小さな子どもの心に強く印象に残るようです。私も、自分が幼いころに読んだせなさんのおばけ絵本は強く心に焼き付いていて、子育ての中で再会した時には夢中になって何度も読み返しました。こわいと感じた部分はだいぶ薄れてしまい、楽しさの方を強く感じるようになっていましたが……。子どもにとっては、こわさと面白さが絶妙なバランスで存在しているのがせなさんの絵本なのでしょうね。『おおかみのでんわ』もまた然り。ちょっと怖かったり、シュールだったり、その中で笑いのつぼをポンと押されるような、不思議な魅力に満ちています。