絵本

『どうぞのいす』でつながるささやかな思いやり

うさぎさんが手作りしたかわいい木のいす。『どうぞのいす』と名付けてみんなに自由に休んでもらおうと思ったら……。最初に訪れたろばさんの行動をきっかけに、続いて訪れる動物たちの「どうぞ」の気持ちが連鎖していき、ほのぼのとした気持ちでいっぱいに。最後のかわいいオチも楽しみに読んでみてください。

執筆者:千葉 美奈子

 うさぎさんの作った『どうぞのいす』とは?

うさぎさんが、のこぎりや釘、トンカチを使って作った、かわいらしいいす。自分が作ったしるしに短いしっぽをつけたら、本当にうさぎさんのような愛くるしい姿に。一生懸命作ったいすをどこに置こうかなと考えた時に、うさぎさんは、動物たちがよく通る木の下を選びました。みんなにこのいすで「どうぞ休んでね」との思いを込めて「どうぞのいす」と書いた立札を立てたのですが……。

丁寧な言葉のセレクト、優しい文章、温かみのある絵は、読み手の心も穏やかにしてくれます。同じパターンの展開が繰り返される長すぎないお話。3歳ぐらいになってくると、絵のかわいさだけでなくストーリーの面白さも味わえるようになってきそうです。



ろばさんが「どうぞのいす」に置いたどんぐりの行方

お話のキーマンは、一番最初に通りかかったろばさん。「どうぞのいす」という文字に感激し、いすの後方の木陰で木の幹に寄りかかって昼寝を始めました。ろばさんが深い眠りに落ちた後に、ろばさんがいすの上に置いたどんぐりをきっかけに、にぎやかな場面が繰り返し展開されていきます。

「どうぞならば、えんりょなくいただきましょう」と立札の意味を勘違いし、ろばさんのどんぐりを食べてしまったくまさん。後のひとのためにと、はちみつがたっぷり入った大切なビンをいすの上に置きました。後から来てそれをなめてしまったきつねさんは、代わりに焼きたてパンを残して……。さて、次に来るのはだれ? 次に残されるのは何?

微妙な勘違いや思い込みが重なると、時にはおかしな展開になってしまうことも日常にはありますよね。でもこのお話では、登場する動物たちはお互いに対面していないのにもかかわらず、みんなの中のちょっとした優しさが自然に連鎖していき、かわいらしいオチへとつながっていきます。


「どうぞ」の気持ちの芽生え

思い起こせば、おすわりができるようになって、積み木やブロックなどを上手につまめるようになった赤ちゃんが次第に覚えていくのが、身近な人との物の受け渡しを通した「はいどうぞ」「ありがとう」の気持ちのやり取り。こんな「どうぞ」の気持ちがスクスク育っていってほしいなあと穏やかな気持ちに包まれるのもつかの間、1歳代になると「確固たる自分」の育ちと共に、お友だちとの物の取り合いが激しくなっていくものなのですけれどね!

そして3歳前後になると、「みんなで遊ぶ」「ことばを楽しむ」という気持ちがぐんと育ってきます。そんな頃にぜひ、親子で楽しんでみてくださいね。
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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