損害保険/損害保険関連情報

損害調査マンに訊いた土砂災害のウラ側1

わが国では土砂災害がほぼ毎年発生していますが、土砂災害による住宅や家財の被害は、火災保険でカバーが可能です。ただ地震や水災といった広域災害とは異なり、土砂災害は個別性の高い特殊な災害で、損害調査に困難が伴う場合もあるそう。損害調査担当のH氏に伺った今回のお話は、多くの方が初めて耳にする興味深いお話ばかりです。

清水 香

執筆者:清水 香

火災保険の選び方ガイド

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水災として補償されるが、損害の個別性が高い「土砂災害」

土砂災害は水災の一種として火災保険の補償対象となる

土砂災害は水災の一種として火災保険の補償対象となる

清水 わが国では何らかの土砂災害が毎年起きていて、土砂災害の危険箇所は全国で52万箇所にも及んでいます。法律では都道府県がこれらを調査し、市町村が「警戒区域」「特別警戒区域」として指定をすることになっています。住民に危険を認識してもらい、注意喚起を行うためです。ところが区域指定のため必要な基礎調査がまだなされておらず、区域未指定となっているケースも少なからずあるようです。土砂災害が起きた広島でも、未指定の箇所で被害が発生しています。危ないところであるにもかかわらず、その危険が十分に認識されていないのは恐ろしいことです。まずは命を守るのが最優先ですが、一方で住宅の経済的被害もカバーできないと、その後の生活再建が進められません。そこでその役割を担うのが火災保険ですが、今日は土砂災害ではどのように保険金が支払われるのか、またどのように損害調査が進むのかをお聞きしたくて伺いました。どうぞよろしくお願いいたします。

Hさん こちらこそよろしくお願いします。火災保険では、土砂災害は「水災」として補償の対象になります。そこでまずは水災の損害認定の方法について説明したいと思います。

清水 はい。

Hさん 水災の損害認定は他の損害と同様、火災保険約款に基づく方法で行われます。自由化前に主力商品として販売されていた住宅総合保険を含め、水災ではどの火災保険でもおおむね、床上浸水を超える被害であれば補償対象になります。ただ、住宅総合保険と損保会社各社のオリジナル商品では約款が異なりますから、補償のされ方は変わってきます。また同じ商品であっても契約時期により補償が異なることがあります。たとえば当社オリジナル商品は、2013年6月前後で補償内容を改定しています。

清水 具体的にはどのように変わったのですか?

Hさん 2013年6月始期までの契約では、損害額が再調達価額の15%未満、30%未満、30%以上の3段階のラインで、支払われる保険金が変わりました(下表参照)。何%の損害に該当するかは、浸水の「水位(高さ)と面積」で決まります。業界で用いられている資料に基づいて、専門家による調査が行われ、3段階のどれに該当するか判断するかっこうです。
2013年6月以前の保険始期の水災補償

2013年6月以前の保険始期の水災補償の例(セゾン自動車火災保険「自分で選べる火災保険」)


清水 地震保険の損害調査でも、専用のチェックシートを用いて損害の判定を行っていますよね?それと同じような形ですか。

Hさん そうです。地震や水災では、特定エリアの大半で被害が発生しますので、一軒一軒、見積もりを経て判断すると保険金を支払うのが遅くなりがちなので、地震保険同様、水災も3段階の支払いにしていたのでしょうね。

清水 広域災害で損害調査をきっちりやっていると支払いが遅れ被災者の方の生活再建に影響が出るので、保険金の支払いの迅速性を優先したのですね。

Hさん ただ、この支払方法にはデメリットもあります。30%未満の損害と認定され保険金が支払われたけれど、一般よりグレードの高い材料を使っている住宅で支払われた金額では足りないなどの苦情や、逆に損害額に対して保険金が多めに受け取れたなどのケースが生じることがあるのです。実際の復旧費と保険金がぴったりでないため、不満に思われる方もいるかもしれない。そこで当社では、2013年6月以降に契約始期となるものからは、実際に生じた損害額で保険金をお支払いする仕組みに変えたのです。

清水 その方が、確かに納得感はありますね。
 

土砂や岩石をよけなければ損害調査に着手できないケースも

Hさん 土砂災害に話を戻します。火災保険では土砂災害は水災として補償の対象になると言いましたが、浸水などと異なり、土砂災害は個別性の高い災害で、類型化したり、一般化できないことがあります。

清水 どういうことでしょうか?

Hさん 浸水では一軒にまんべんなく損害が生じますが、土砂災害では必ずしも床上浸水は生じませんし、1軒の家屋に被害がある部屋とない部屋が生じることもあります。同じように土砂が入っても全ての部屋に被害があるのか、1部屋にしかないのかで、損害の額は変わってきますから、水位や面積だけで判定することは適当ではありません。したがって、土砂災害の場合は浸水のときのような簡易的な方法での算定はできず、1軒ごとの個々の状況にあわせた損害額の算定をするしかないのです。

清水 …確かに。

Hさん 浸水被害と異なり、建物の躯体そのものがずれたり、壊れたりする損害が発生する可能性もありますし、住宅のかなりの部分に土砂が寄りかかっている状態になったり、敷地の周りに何百トンもの土砂がある状態になることもあります。地盤が沈下するパターンもありますね。一方で、家はしっかり建っていて、壊れているのは室内だけ、といったケースもある。また、家の中に岩石がはいってしまったら、パワーショベルなどの重機を使って取り出すなど復旧にいろいろお金がかかることもあります。

清水 建物の構造体そのものに損害が及ぶ場合がある一方で、構造体は大丈夫でも中がめちゃくちゃになるケースもあるのですね。なるほど、被害を類型化するのは難しいですね。水災の一種とはいえ、一律に浸水被害となる洪水の被害とは異なり、いろいろなケースが考えられるわけですか。

Hさん そうなんです。そもそも周囲の土砂をどかさないと住宅全部の損害調査ができないため損害額が確定できないケースなどもあります。立ち入り禁止になっているケースでは、損害調査そのものに着手できないためどうしようもありません。しかし、損害が確定できないことには保険金も支払えないんです。

清水 まず優先されるべきは土砂の撤去ですね。

Hさん そう、土砂をよけてくれないと調査のしようもないのですが、例えば広島のある場所では、敷地内の土砂は市がどけることになっていて、隣接する山の土砂については国がやることになっているそうです。ただ、いつやるかは決まっていないなど、行政が負担する部分が絡むといろいろと難しいようです。これは土砂災害特有の困難と言えるでしょう。

清水 となると結果的に、損害調査までに相当な時間を要するケースもあるということですか…。地震は構造の被害で判定されますし、水災は水位と面積で判定されてわかりやすいですが、土砂災害はどう入ったのか、どこにどの程度入ったのかにより個別に判定せざるを得ないし、そうなれば損害調査にも時間がかかることになります。個別の損害の程度によって、受け取れる保険金だけでなく、保険金が支払われるまでの時間も変わってくるということですね…。

次のページでは、個別性の高い土砂災害の損害調査について解説します
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